アップリケ
女性が団結すると怖いものだ。
そんなこと前々からわかっているのだが。
今日もゴミ捨て場で談笑する雌猫たちに雄猫は近づいていけなかった。
それは散歩に出かけた帰り道だっただろうか。
「ねえランパス、私あなたの手作りのお菓子が食べたいわ」
屋根の上で並んで、夕暮れ時の風に耳を澄ましているときだった。
「カーバ、今度お菓子持ってきてよ」
それは黄昏時の夕日に目を奪われそうになった瞬間。
「たまにはギルにもお菓子作ってほしいな」
一緒に早めの夕食を食べ、一休みしているその時に。
「コリコ、私のためにお菓子つくってくれない?」
「それはちょっと…」
ボンバルリーナの妖艶な微笑みに言葉を濁した。
「おやすいご用だ、待っててくれよ!」
ディミータの言葉にとびきりの笑顔で嬉々として胸を張った。
「そうですね、最大限努力はしてみます」
タントミールに微笑まれ、いつも通りの笑顔を返せていますようにと願う。
「もちろんだよ!」
ジェリーロラムのお願いに即答していた。
「図られたな」
「図られましたね」
ジェニエニドッツの家の前で鉢合わせしたランパスキャットとギルバートが呟く。
コリコパットとカーバケッティも中にいた。
「ボンバルの言うことを無碍にはできないだろう?」
「ディミが食べてくれるって言うんだぜ」
「タントにはいつもいろいろお世話になってますし」
「ジェリーに作ってもらってばっかりでも悪いかなって」
言い分はそれぞれだが、日を同じくしてお願いされるなどありえない。
それは偶然ではありえないということだ。
図ったなら、今ここに見える結果にもなりうる。
「ま、うだうだ言っても仕方ないな」
ジェニエニドッツに調理場を借りたものの、手を動かさなければ進展はない。
器用な男カーバケッティはさっさと準備を始めた。
「まあ、騙されたと思ってやるか…」
「思ってというより、むしろ騙されているのがわかっていますが」
仕方なしに準備を始めるランパスキャットとギルバート。
その時、コリコパットが思い出したようにそうだと声を上げた。
「どうしたんです?」
「ちょっと忘れてた!」
コリコパットは脱兎の如く調理場を後にすると、すぐに何かを抱えて戻ってきた。
「何だそれ?」
カーバケッティが紙袋に包まれているものを訝しげに見る。
「さっきおばさんに言われたんだ、始める前に渡すものがあるから取りにこいって」
コリコパットはにぱっと笑うが、ランパスキャットはげんなりした表情で溜息を吐く。
「受け取りたくはないな」
「同感です」
ギルバートも眉を寄せる。
図られたのは確実だろう、そしておまけ付きだ。
「あんまりよろしくない感じがするな」
カーバケッティはそう言いながら、コリコパットの抱えるものを一つ取り上げた。
「あ、それギルのだよ。カーバのはこの下にあるのだ」
「は…決まってんの?」
唖然とするカーバケッティ。
余計に嫌な感じがするのはどうしてなのだろうか。
「まあ座ってよ」
コリコパットに促されるままにカーバケッティ、続いてランパスキャットとギルバートも輪になるように腰を下ろした。
「これ、女の子たちからプレゼントだって」
そう言って、コリコパットは紙の包みを一つずつ手にとって渡していく。
「これはランパスの、これはカーバ、こっちはギル。で、これが俺の」
そして包みを自分の前に置くと更に言った。
「ランパスにはジェミマから、カーバにはカッサから、ギルにはヴィクから、
俺にはランペルから、それぞれ手作りらしいよ」
ランパスキャットはコリコパットのにこにこした顔を見て、お前は幸せ者だと呟いた。
なんせ、特に何の疑いもなくプレゼントを受け取れるのだから。
「まあしかしあれだな、カッサまで噛んでるならこれは本当に雌猫全員参加だろうな」
諦めたようにカーバケッティが言う。
「それはそうでしょうけど…僕、これ開けたくないんですよね」
ギルバートは紙包みを弄びながら呟いた。
「開けないのも失礼だしな…とりあえず後で見よう」
「あ、待って!」
立ち上がろうとしたカーバケッティを制するのはコリコパット。
「何だ、まだあるのか?」
「違うって。バブが始める前に開けて下さいねって言ってたんだ」
カーバケッティが固まった。
シラバブの言うことだ、ろくなことではないだろう。
「本当に開けるのですか?」
「どこに見張りがついてるともわからんしな」
ギルバートに答えるのはランパスキャット。
そして同時にはあっと溜息を吐く。
「まあここは開けないといけないみたいですし、どうですか、一緒に開封するというのは」
「うん、それが最良の選択だろうな」
ギルバートの提案にカーバケッティが賛同する形で今からの行動が決定された。
輪になって座った4匹の雄猫たちはやや緊張の面持ちでそれぞれの紙袋を手にする。
「では、せーので中身を取り出して下さいね。いきますよ…せーの!」
はたから見れば滑稽極まりない光景だが、彼らにとっては真剣な問題なのだ。
それぞれの手には、紙袋から引っ張り出された色違いの布の塊が掴まれている。
「これ、何?」
丁寧に折りたたまれ、アイロンにノリまでかかっているその布は。
コリコパットはどうしたものかと首を傾げる。
表情を険しくしたのはカーバケッティ。
彼の中ではおおよその答えが見えたのだろう。
「すっごく広げたくない」
力無く呟くカーバケッティを見やったランパスキャット。
自分の手にした布の塊をどうするでもなく弄んでいる。
「往生際が悪いぞ、カーバ。ここまできたら諦めるんだな」
「だったらお前が広げてみるといい」
そっけなく言い返されたランパスキャットはつまらなさそうだ。
しかし、相手に往生際が悪いと言った手前嫌だとも言えず。
「いいか、しっかり見ておけ」
それでも何か言わなければ気が済まなかったようだ。
ぼそっとそれだけ呟くと布の塊を手に立ち上がった。
畳まれた布の一端をつまむと、惰性で布が広がっていく。
意外と大きな布がその全貌を現すと共に、どこからともなく紐も姿を見せた。
「…傑作だな」
カーバケッティの声が虚しく響く。
時が止まったように、静かな空気が彼らを包んでいた。
ランパスキャットの手から提げられているのはエプロン。
胸元には愛らしいひよこのアップリケ。
「ランパス、似合ってないし」
コリコパットの本音。
確かに、お世辞にも似合うとは言い難いのだが。
「更にやな予感がしてきました…」
ギルバートはそう言いながら自分のものを広げてみる。
「色違いってやつだな」
「そだね」
嫌な予感が当たって突っ伏しているギルバートを置いて
カーバケッティとコリコパットが手短にやり取りを済ませた。
「こうなると俺のもきっと色違いだな」
カーバケッティも己の手元にある布を広げる。
目を引くのはやっぱり可愛いひよこのアップリケ。
「あ、俺も一緒」
一番普通に受け入れたのはコリコパットかもしれない。
「これ付けて調理すんのか?」
「そうしろって意味でしかありえないでしょう…?」
固まっていたランパスキャットと床に張り付いていたギルバートが復活。
図られただけならまだしもとんだプレゼントだ。
「僕らがこんなの付けてお菓子作ってるなんて、考えただけでもおかしいですよ」
ギルバートの意見はもっとも。
「せっかく女の子たちが作ってくれたんだぞ。使わなきゃ失礼だって」
これはコリコパットの意見。
正論と思えば正論。
しかし、自称紳士のカーバケッティも今回ばかりは同意しかねるようだ。
「男たるもの、やっぱり見た目も大切だし」
ランパスキャットは何も言わないが、明らかに嫌そうだ。
その時。
それこそ図ったのかと思うほど良いタイミングで来訪者。
正しくは家主の登場だ。
「あ、おばさん」
カーバケッティはジェニエニドッツの姿を認めて言った。
いつも通りにこにことしたジェニエニドッツはつかつかと雄猫たちの傍までやってくる。
「まだ始めていなかったのかい?」
そう言われても、と雄猫たちは返事に窮する。
「おや、それは女の子らからのプレゼントかい?」
それぞれが手にしているエプロンを目にしたジェニエニドッツ。
「おばさんもグルですか?」
まじめに問いかけるギルバートにジェニエニドッツはあっはっはと大笑いする。
「グルとはあんまりじゃないかい?
女の子たちが作り方を教えてくれって言うから指導したまでさ。
どれどれ、似合っているかい?ちょっとばかり見せてくれるかい?」
「あーっと…それはちょっと」
「なんだい、嫌なのかい?」
嫌なのかいと聞かれて嫌ですと答えられたらどれほどいいか。
「まあいいじゃんか。ちょっとくらい!」
最初からそれほど否定的でなかったコリコパットはあっさり承諾した。
「そうかい、それじゃあ見せておくれ」
「うん、わかった。ほら、みんな早くしろって」
コリコパットがいつまでも渋っている兄猫たちをせっつく。
「これ、後ろどうなってんだ?」
「ぼたんじゃないのか?」
「これ自分で結ぶようになってるんじゃないですか?」
エプロンなんて基本的に付けることはないのだ。
ひとしきり大騒ぎしてようやく全員が準備完了。
ランパスキャット、カーバケッティ、ギルバート、コリコパットと並んで。
揃って直立でジェニエニドッツの方を向く。
「ねえ、おばさん今日どうしたの?」
「それが腹筋筋肉痛で起きられないそうよ」
「へえ…何があったのかしら」
可愛そうなことになってしまった。。。
ぴよっちサブレとかいうお菓子がありましてね、そのネーミングと袋が気に入りまして。
しかしエプロンて・・・これは裸エp(ry
最後の台詞はスリーガールズかなー。
笑いすぎて腹筋筋肉痛とか。ないな。