笑えない
教会の入り口で、チャペルを終えて帰ってゆく人間たちの背をただぼんやりと見送っているギルバートとコリコパット。
何をするわけでもない。手持ちぶさたなのだ。
「・・・でもさ、やっぱりジェリーが一番だ。優しいし歌も上手いし、いろいろとつき合ってくれるし」
足下の小石を拾い上げて弄びながらコリコパットは言う。
「タントほど気高くて素敵な女性はいませんよ。
あれでけっこう気さくなところもあるし、なによりダンスが上手です」
真顔で返すギルバート。
さっきからこればかりだ。
自分の彼女が一番だと不毛な言い争いをしているらしい。
要するに暇なのだ。
「つまらないよなあ…スキンブルは明後日にならないと帰ってこないし」
「カーバもランパスも仕事に恋に忙しいようですし」
はあっと揃って溜息を吐き、会話が一瞬途切れた。
「あの」「えっと」
同時に話し出すコリコパットとギルバート。
「何だ?」
「いえ、どうでもいいことなんでコリコから話して下さい」
「俺だって下らないことだし。ギルから話せよ」
「僕のは本当にどうでもいいことなんで」
「俺だってつまらないことだし」
なぜかここで譲り合いの精神を発揮するコリコパットとギルバート。
食べ物の前では譲り合わない分ここで譲り合おうと言うのか。
ともかくも「先に言えって」「貴方が先に言って下さい」の押収が始まった。
何回となく続いた言葉のやりとり。
「じゃあコインで決めよう」
たまたま目についたコインを拾い上げてコリコパットが提案する。
人間が随分前に落としたものだろう、もう教会の庭の一部になっていたそのコイン。
どうにしろ猫たちには無意味の代物だ。
「コインですか?いいですよ」
ギルバートが言うと、コリコパットはコインをはじいた。
綺麗に跳ね上げられ、落ちてきたコインをパッと隠す。
「どっち?」
「そうですね、では表で」
コリコパットの手の上には裏側になったコイン。
「ギルの負け。ギルからだな」
コリコパットがニッと笑って言う。
ギルバートは仕方なさそうに息を吐いた。
「僕が終わったらちゃんとコリコも話して下さいよ」
「わかってるって」
「本当にどうでもいいことなんですよ・・・」
そう言うとギルバートは一息ついた。
遠くに目をやってポツリと呟いた。
「ブロッコリーに塩をかけて食べるとおいしいそうです」
気まずい沈黙が彼らを覆う。
コリコパットは反応するに反応できず。
「・・・・・それだけ?」
「そうですが」
笑うに笑えず、つっこむにつっこめず。
というか、ギルバートはブロッコリーを食うのか。
「・・・本当にどうでもいいよな」
「だから言ったじゃないですか!次はコリコの番ですよ!」
「わかってるって」
真っ赤になったギルバートにやや気圧されながらコリコパットは空を仰いだ。
空気が透き通っているのだろう、綺麗なスカイブルーに目眩すら覚える。
「俺さあ・・・」
言いかけて思わず口を噤むコリコパット。
先程はなんでも無いことのように話し出そうとしていたことが今になって喉に支える。
「なんです?」
ギルバートから冷静に促されコリコパットは諦めたように口を開いた。
「俺、今朝ウインナー食べたんだ。」
「・・・・・・・・・・」
くだらない。
とも言えず、ギルバートの表情は困惑気味にしかめられた。
「だーっ!何だよその顔!」
どうでもよすぎて恥ずかしくなったのか今度はコリコパットが赤くなっている。
その顔と言われてもギルバートに何の非もない。
「だからくだらないって言っただろ!?」
「いや、怒られても困るんですが…」
お互いどうでもいいの度が過ぎていたらしく、笑うに笑えないのだ。
笑いたくても笑えるネタではない。
でも、何かおかしい。
必死に譲り合いしていたのがバカらしいことこの上ない。
風が出てきた。
そろそろ日も沈もうとしている。
さほど冷たくもない風は心地よく耳元をかすめてゆく。
「・・・なんか、虚しいよな」
「言わないでください」
コリコパットとギルバートは並んで風に吹かれていた。
足下に落とした小石を拾い上げ、コリコパットはそれを放った。
「帰ろうか」
「そうですね」
コリコパットとギルバートは教会を後にした。
教会の庭に転がる小石にも、錆びたコインにも、風は優しく吹いている。
くだらねー。と、思っていただければ幸いです。
話しだすのが同じタイミングってのは往々にしてあるものだと思います。