青い月明かりの中で
舞踏会のリハーサルを終えた夜、ヴィクトリアは明るい月明かりの中に佇んでいた。
「ヴィク、何をしている。もう遅いぞ」
少しはなれたところから声を掛けたのは、夜の見回りから戻る途中のマンカストラップ。
ハッとしたように振り返ったヴィクトリアの元に歩み寄る。
「マンカス、今日はありがとう。舞踏会も楽しみにしているわ」
近寄ってくるリーダー猫を振り返り、ヴィクトリアは微笑んで言った。
青い月光がそう見せるのか、息を呑むほど神秘的な彼女の微笑み。
マンカストラップは彼女の言葉に面食らったかのように歩みを緩め、白い小猫に問う。
「どうして俺をダンスパートナーに選んだ?俺は決してダンスは上手くない」
ヴィクトリアはマンカストラップの真摯な眼差しから逃れるように月を仰ぐ。
そして独り言とも取れる声で呟くように答えた。
「忘れたくないのよ。一生懸命生きるということを」
「どういうことだ?」
やや怪訝そうな表情で、ヴィクトリアを見ているマンカストラップ。
彼女は月を見つめたまま言う。
もうすぐで満月になるはずの月。
満月になったその夜、舞踏会は開かれる。
「私、飼い猫だったわ。あなたがそうだったようにね。
部屋の中で飼われる単調な毎日に飽きて、たまたま知り合って仲良しだったランペルにここまで連れてきてもらったの。
私・・・とても恥ずかしかった。この街で一生懸命に生きて輝いているみんなを見て、自分が恥ずかしくなったの。
そしてみんなみたいに輝きたいと思ったわ」
言葉を切り、ヴィクトリアは月に向かって手を差し伸べた。
何かを求めているように。
マンカストラップはただ黙って彼女を見守っていた。
「あなたを見ていると、輝きたいと思っていた自分を思い出すことができるの。
あなたも私と同じように輝きたいと思っている、そう感じるから」
そこまで言って、ヴィクトリアはマンカストラップの方に顔を向けた。
マンカストラップはまだ何も言わない。
「わかっているのよ・・・私の勝手な思い込みよ、わかっているの。
でもね、あなたとダンスしていると輝いていたいと思った私を忘れずにいられるの」
ヴィクトリアの銀色の毛並みが月の光に輝いている。
それに誘われるように、マンカストラップは一歩踏み出し言った。
「君のダンスを見るたびに、がんばる君を見るたびに、俺も頑張らなくてはと思えた。
少々壁にぶちあたっても・・・一生懸命になる気持ちを君から与えてもらった」
静かな、穏やかな笑みとともにマンカストラップは手を差し出した。
青い月明かりの中、ヴィクトリアは躊躇うことなく彼の大きな手をとった。
「「ありがとう」」
二つの静かな声が重なる。
静かな夜に、それは思いのほか大きく響いた。
頑張る君に、輝くあなたに、一生懸命になることを教えられた。
舞踏会前の誰も知らないひと時。
輝いて生きる、ジェリクルの一員であれるために、お互いの手をとった静かな夜。
サイトリニューアルにあたり修正をしてみました。
何も変わってないといえば変わってませんが。
二匹とももともと飼い猫、首輪してますからね。
両方綺麗な猫だと思います、月の光がよく似合いそう。