王子様!?
「ちょっと、いい加減にしたらどうなの!?私がそんなに重いわけ!?」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて、だな。その・・・わ、悪い」
「ここのところそればっかりじゃない。口で謝っても何の進歩もないじゃない。
どうしてボンバルはいけて私はダメなの!?」
もの凄い剣幕で相手に詰め寄るのはタントミール。
ゴミ捨て場の隅に追いつめられ、しどろもどろになっているのはランパスキャット。
「ギルでさえうまくしてくれるのよ。どうしてギルより大きなあなたにできないの!?」
「つ、次は成功させるから・・・」
似たような押し問答は、つい数日前にもした。
目の前のブチ猫のいつも通りの弁解にはタントミールもウンザリしていた。
呆れたように溜息を吐くタントミール。
迫ってきた舞踏会に向けて、ここ最近、定期的に群舞の練習が行われていた。
ランパスキャットの相手はタントミールだけではない。
群舞だから相手は次々替わる。
しかし、雄猫にはリフトという免れない仕事がある。
タイミングとスキルがあればそこそこうまくいくものだ。
だが、腕力がいらないのかと言われればそんなことは全くない。
今回も、その前も、つまるところ今まで行われた全ての群舞練習で、
皆が一斉にリフトするところで、ランパスキャットはタントミールのリフトに失敗していた。
持ち上がらないか、若しくは途中で落としてしまう。
幾度となく練習が行われているにも関わらず、白黒ブチの猫は相変わらず腕力がつかない。
背は高いものの、細身で非力なちょっと頼りたくない男に仕上がっている。
一方のタントミールは、雌猫の中にあっては普通より少し身長は高い方だ。
ただ、異様なまでにスレンダーなのだから、少なくとも身長で彼女に勝っているボンバルリーナよりは軽いはずである。
「私は無理なのにどうしてボンバルはリフトできるの?」
もっともな質問。
そしてランパスキャットの痛いところをつく質問でもあった。
「つまりだな、やっぱり見せ場だからな・・・落とすと後が怖いし」
痛い質問に思わず本音が出たランパスキャット。
タントミールは呆れたような視線を送った。
「ギルなんてあんたよりも随分と小柄だけど、いつもきちんとリフト成功させてくれるわ。
ねえ、もう少し力つかないの?この前なんかジェミマさえまともにリフトできなかったでしょ?
ジェミマ、けっこう怒っていたわよ」
リフトのはずが奇妙なお姫様だっこになってしまったのだ、怒るのも仕方ない。
本当のことだけに反論できないでいるランパスキャットに、タントミールは更に言う。
「そんなことだから"王子様"なんて言われるのよ」
「お、王子様!?俺が?誰がそんなこと・・・」
思わず声が裏返ったランパスキャットに、タントミールは冷ややかな目を向けた。
「みんなよ」
端的な答えにランパスキャット撃沈。
確かに、バレエを基礎にしなダンスは溜息を誘うまでに優雅だし、雌猫たちに引けを取らない柔らかな動きが彼の持ち味でもある。
ついでに男かと疑いたくなるくらい線が細い。
そして非力なのだから。
「いいわ、鍛えてあげる。考えがあるのよ」
すごく素敵な笑みを浮かべて、タントミールはランパスキャットの細い腕を掴んだ。
「な、何を・・・」
その日以来、早朝、ランパスキャットの寝床に彼の姿がないという日が続いた。
何があったのか、知るものは少ない。
ただ、タントミールの考えたという鍛錬のおかげで、
ランパスキャットは舞踏会当日のリフトは全て成功させたのだった。
静岡デビューの某Kランパスがモデル。本当に王子と言われていたようですが。
まるで喧嘩猫には見えない優雅な青年で、上品そうでした。
リフト失敗もご愛敬、ですかね。
そして、たぶん鍛錬の師匠はギルバート。タントが思いつきそうな辺りで。
しっかしKランパスはいつまでもリフトが苦手そうでしたな。。。