Jellicle Warrior

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最終更新日: 2018-11-11
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Jellicle Warrior

2 夢世界・現実世界



「低級な冗談か、これは」

つい今し方の決心がぐらつきそうだ。
いや、確実にぐらついている。

タンブルブルータスは軽い眩暈を覚えて空を仰いだ。
そこは真っ白な世界ではなく、大地と木々と草花と青空に包まれた世界。
全然知らない場所。
だが、ありきたりすぎてどこかで見た気すらする構成だ。

「何これ」

ポカンとしてくるりと視線を巡らしたランペルティーザ。

「笑い話だな」

カーバケッティは深く溜め息を吐いた。

「扉の向こう側に出ただけという次くらいにはタチが悪い」

苦笑を浮かべたギルバート。

「ドアの向こうはつながった世界でしたね」

シラバブが言うと、それぞれが一様に疲れた笑みを浮かべた。
緊張していたぶん、拍子抜けもいいところだ。

「入口は違えど行き着く場所は同じ、か」
「そのようですね。でも、決して事態は好転していませんが」

カーバケッティの肩をポフポフと叩いて、ギルバートは一本道を指し示した。
依然として知らない場所にいることに違いない。

「進むしかないわね」
「そうだな」

ランペルティーザは遠い先を見据え、タンブルブルータスは扉を振り返った。

「再び扉を開く、と聞こえたが」
「そう言えばそんなこと言ってたな」
「またここに戻ってくるのでしょうか」

男たちはそれぞれに己が通り抜けてきた扉を見つめている。

「扉の刻印がどうとか言っていたわ」
「コクインと言うのは?」
「その印じゃないの?刻んだって感じじゃないけど」

シラバブは改めて金の板に目を向ける。
何度見ても不可思議な模様があるだけで意味がわからない。

「ここに留まっても埒があきませんね。行きましょう」

あっけらかんとした声に、シラバブはくるりと振り向いた。
声の主、ギルバートはいつだって全力で前向きだ。

「進まなきゃ解決策も見つからないしね」

ランペルティーザも再び決心したらしい。
タンブルブルータスも頷いた。

「ああ、早くカッサに・・・?」
「ん?どうした?」

急に立ち止まったタンブルブルータスを振り返ったのはカーバケッティ。
次いで、他の三匹も足を止めた。

「カッサが」
「は?何か言ったか?」
「カッサが呼んでいる・・・」

タンブルブルータスは地についた己の右の手に目を落とした。
そんなはずはないのに、温もりを感じる。










「綺麗な空、透き通った川があるわ」
「カッサ?」

突如口を開いたカッサンドラに驚いたのは
彼女の一番近くに座り込んでいたマンカストラップ。

「あれ、もうつながったのかい?しかも異界の目まで開いてるね」
「イカイノメ?ミスト、それは何なの?」

ジェミマは興味深々だ。

「異界の目というのは、そのままだけど違う世界を見るための目のことさ」

ちょっとやそっとじゃ体得できないけどね、とミストフェリーズは付け足した。

「大方、自分以外の何者かの目を借りて見ることが多いのよね」
「ふうん、ヴィクは妙なことよく知ってるよな」

コリコパットは、一時の深刻な表情を和らげている。
安らかに眠っている仲間らを目の前にして眠気に襲われたのか、
先ほどから何度か欠伸を噛み殺している。

「で?どうすんだよ」
「せっかちだね、タガー。焦らなくも君にも出番はあるよ」
「んなもんいるか。しち面倒くせえ」

本気で面倒ならここに居続ける意味がわからないよねと、
ミストフェリーズは胸の内で呟いた。

「心配性なのね」

クスッと笑ったのはヴィクトリア。

「んなこたねえ」

やけにタガーの声のトーンが落ちた。
相手が相手だけに、威勢よくやり返せないとみえる。

そんなやり取りを全く聞く様子もなく、
ミストフェリーズは真剣な顔つきでカッサンドラと話し始めた。








「武器ぃ?」

ランペルティーザは甲高い声を上げた。

「向こうは確かにそう言ったのか?」

カーバケッティが確認するようにタンブルブルータスに目をやった。

「ああ、武器を取って必要ならば振るうようにと」
「物騒な話ですね」

ギルバートは辺りを見回した。
この上なく平和なように思う。

「武器なんて、この爪がありゃ充分だろう?」

カーバケッティが、よく手入れされた爪をちらりとむき出しにしてみせる。

「だいたい武器なんてホイホイと見つかるもんじゃあ・・・」
「あ、あった」

道端の石ころでも見つけたかのような軽い調子で言うのはランペルティーザ。
彼女が指し示す先には、確かに武器庫と思しき粗末な小屋がある。

「これはまた随分放置されているようですね」

早速中に踏み入れたギルバートは、埃っぽさに僅かに顔をしかめた。
クモが巣をかけている。
一つ二つなんてものじゃない、無数にある。しかも半端なくでかい。
一体どれほど手入れされていないのか。

「わあ、色々あるわね。でも、なんかどれもこれも似てる気がする」

続いて入ってきたランペルティーザが物珍しそうにきょろきょろとしている。
耳に蜘蛛の巣が引っ掛かっても気にしていない。

「全部槍ですね。形状が少しずつ違うようですが・・・」

ギルバートがそう言いつつ、手を一本の槍に伸ばした。
瞬間、バチッと火花を立てんばかりの衝撃が走り思わず飛びのいた。

「何があった」
「大丈夫ですか?」

タンブルブルータスとシラバブが同時に声を掛ける。
一瞬走った痛みはもう無く、ギルバートは大丈夫だと言った。

「武器を取れっていうのに、取ろうとしたらこれかよ」

カーバケッティは眉を寄せた。
静電気とかいうものかもしれない、と考えもしたが。
その時、シラバブが小さく声を立てた。

「あの槍・・・」

ふらりと何かに惹かれるように、シラバブは一本の槍に手を伸ばす。

「バブ、下手に触らない方がいい」

タンブルブルータスの忠告は綺麗に無視される形となった。
その槍は何事もなくシラバブの手に収まったのだ。

「・・・やっぱり静電気だったのか?」
「いえ、それはないですね。明らかに拒否された感じでしたよ」

初めて持つだろう槍を弄ぶシラバブを見つつ、ギルバートは言った。

「たぶんなんですけど」

シラバブは自分を見つめている他の猫たちに向きなおった。

「この槍の先の形、私が抜けた扉に描かれていた気がするんです」
「あ、そう言えば!」

ランペルティーザはすぐに思い当たったのか数々の槍に視線を巡らした。
そして躊躇い無く一本の槍を手に取った。

「不思議な形ね」
「片鎌槍ですよ。あれは、単なる模様じゃなかったんですね」

ギルバートはそう言いながらさっきとは別の槍に手を伸ばした。
今度は火花が散ることもなく槍の柄を握ることができた。

「俺はたぶんこれだ」
「こんな感じだったと思うが」

カーバケッティとタンブルブルータスもそれぞれの武器を手に取った。
少しずつだが、それぞれ穂先の形状が異なる槍だ。

「僕のは素槍というものです、バブのは鉤槍ですよ」
「俺のは?」
「カーバのは十文字槍、タンブルのは両鎌槍です」

どっちも鎌槍の一種ですけどね、と付け加えるギルバート。
彼の知識は、得意にする殺陣の勉強の延長線上にあるのだろう。

「とりあえずこれで武器は手に入ったな」
「次はどうするのかしら」

ランペルティーザがタンブルブルータスを見やる。
何の情報も無いこの世界で、唯一の情報源だ。

「道なりに進むように、と。それしか言わない」
「確かに道は一本しかないが」

武器庫から出てカーバケッティはずっと遠くに目をやった。 
この道はどこまで続くのか。

「行きましょう」
「そうだな」

その辺にあった古めかしい帯のようなものを槍に結び、
斜めがけに背負うようにして五匹は再び進み始めた。








「今の風景を教えてくれるかい?」

ミストフェリーズがカッサンドラに声を掛ける。
目を閉じたまま、カッサンドラは小さくうなずいた。

「目の前にせせらぎがあって、木の板を渡しただけの橋がかかっているわ。
 右手遠くに十字架が見える、お墓というものかしら。
 お墓の向こうは森ね。左手は石造りの・・・家かしら」
「誰かいそうかわかるかい?」
「・・・気配は感じないわ。あくまで私の感じだけれど」

ふうん、と呟いてミストフェリーズは皆に目を向けた。

「今、カッサが言ったような場所に心当たりはないかな。
 大抵は現実世界に似たような場所があるはずなんだ」
「せせらぎなんてないじゃん、川はあるけどさ」

コリコパットが白けたように言う。
そうじゃなくて、とミストフェリーズは困ったように眉を寄せた。

「あくまで似たような設定ってこと、配置が似てればいいんだ。
 向こうがせせらぎでこっちが川だってかまわない。
 要は、似たような構図が必要なんだよ」
「そう言われても・・・マンカス、思いつく?」

スキンブルシャンクスは真剣に考え込む縞猫に話をふった。
毎日見回りに出ているマンカストラップならば、と思ったのだ。

「・・・連想は苦手だ」
「うん、わかってるんだけどね」
「スキンブル、そうあっさり認められても複雑だぞ。
 マンゴはどうだ?お前はいつも街を徘徊しているだろう?」

声をかけられたマンゴジェリーは、厭そうに顔をしかめる。

「徘徊って言葉悪くねえか?まあいいけど、すぐには思いつかねえな」

首を捻る赤毛の猫の後ろで、ずっと黙っていたディミータが目を上げた。
それをミストフェリーズは目ざとく捉えて目を向けた。

「ディミ、何か思い当たることでも?」
「ええ、違うかもしれないけど。
 せせらぎだから水、橋は水の上にかかっているもの、十字架は教会、
 家はそのまま家だと考えてみたらどうかと思って」

そう言うと、ディミータはくるりと振り返って窓の向こうを指し示した。

「あっちの方から歩いてくると、教会に来るまでに排水溝が横たわっているわ。
 気にしないでいいように蓋がされているけれど。
 その方向からなら右手に教会、左手は家が並んでいるはずよ」
「なるほどね、じゃあそれを採用だ。直感が何より当てになることは多いし。
 あ、カッサ。タンブルたちに少し足を止めてもらうように伝えておいて」

ミストフェリーズは立ち上がり、腹ごしらえをしている5匹の傍に寄る。

「聞いた通りだ。今ディミが言ってた場所に行って探し物をしてほしいんだ」
「探し物だ?一体なんだってんだよ」
「言ったろ、タガー。夢の魔導師は酔狂な奴なんだ。
 もう夜だ、人間たちも寝静まっている頃だろうね。
 時間はあんまりない、夜が明けてしまえば次の夜まで待つことになる」

一日二日眠ったままでも大丈夫だろうが、長引くと身体が弱る。
それに、待つ方も耐えられなくなりそうだ。

「わかったよ、何を探せばいいんだね?」
「おばさん、よろしく頼むよ。コインを探してほしいんだ。
 ゲームの世界じゃ必須のアイテムさ、それで物をやりとりできる」
「何をやりとりしようというんだ」

低い声でランパスキャットが訊いた。
黒い魔術師はうっすらと不気味な笑みを浮かべた。

「魂さ。夢の魔導師が気紛れに落っことしたコインと引き換えに
 バブたちの魂をこっちに引っ張り戻す」
「・・・酷く現実離れした話だな。だが、今はお前に従うしかあるまい」
「頼りにしてるよランパス。スキンブルとヴィクもね」
「何とかするよ」

手についた肉汁をぺろりと舐めて、スキンブルシャンクスは立ち上がった。

「行くよ、時間がないんだろう?さっき言ってた場所を探せばいいんだね?」
「少し情報が少ないわね」

立ち上がりながらヴィクトリアが呟いた。

「おまけに漠然としすぎだ」

タガーも勢いよく立ちあがる。

「まあでも、何とかなるか」
「何とかしてくれるとありがたいよ。気をつけてね、何か起こるかもしれない」
「今更だ」

少し心配そうなミストフェリーズの言葉を軽く鼻で笑ったのはランパスキャット。
それを合図に、5匹の猫たちは窓から教会の外へと出てゆく。





「情報が少ないと言っても」

指示された場所に向かいながら、ヴィクトリアが唐突に口を開いた。

「排水溝の向こうから教会の十字架が見える場所じゃなきゃいけないわ」
「そうそう、ついでに気配がないと言っていたから
 見える範囲の家の人間たちは活動していないんだと思う」

冷静に見解を述べるのはスキンブルシャンクス。

「それなら随分絞り込めそうだね。さあ、気合入れようか」

ジェニエニドッツが駆け出す。
若い猫たちも遅れまいと足を早める。
暗い暗い、新月の夜。

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Jellicle Warrior 第二弾!

うまくいきすぎとか、設定がありえないとか、
そんなことは「ファンタジー」という言葉で無理やり包んで見ないふり。

ミストフェリーズはめちゃめちゃ重要な役どころなのに
喋ってるだけで存在が地味だ。。。

現実で5匹が選ばれた理由。
スキンブル → 頭脳
ランパス → 腕っ節
ヴィク → 不思議な場面で活躍できそう
タガー → 何でもできるオールラウンダー
おばさん → まあ色々と


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