Jellicle Warrior

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最終更新日: 2018-11-11
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Jellicle Warrior

3 世にも奇妙なコインの守護者



「何か起こるかもしれないと言っていたけど、どういうこと?」

5匹が出て行った後の窓を引っ張って閉じながら
ボンバルリーナはミストフェリーズに訊ねる。

「さっきも言ったけど、夢の魔導師の遊びに付き合わされるわけだから
 奴が気紛れに何か仕掛けてくるかもと思ったんだよ。
 何も起こらないかもしれないし、吃驚するようなことがあるかもね」
「危険はないのか?」

当然のように仲間らを心配するのはマンカストラップ。

「危険はないと思うよ。煩わしいことはあるかもしれないけどね」
「それなら大丈夫でしょうよ。
 ヴィクやスキンブルは機転が利くし、おばさんは肝が据わってるし、
 最悪力ずくでなんとかってことでもタガーとランパスがいるわ」

あまり心配した様子もなく、窓を閉め終わったボンバルリーナは
どことなく落ち着かないディミータの隣に優雅に座った。









「進んでいいと言ってきた」

タンブルブルータスの声で、休んでいた猫たちは腰を上げた。

「コインが必要らしい」
「コイン?なんで?」
「俺に聞かれても知らん。だが、それがあったら何とかなるらしい」

コインと言っても、とギルバートは困惑の表情を見せる。

「あの丸くて金属でできているものですよね?
 どのようなものかもわからないのに、そんなに簡単には・・・」
「あ、あった」

やはり、その辺の雑草でも見つけたようなノリの軽さだ。
ランペルティーザは少し先にある家の軒先の辺りを指し示している。
驚異的な視力の持ち主のランペルティーザでなくとも、
何かが日の光を反射してきらりきらりと煌めいているのはわかる。

「こりゃまたこれ見よがしに・・・」

カーバケッティが呆れたように溜め息を吐いた。

「なんであんなもの吊ってあるんだ?カラス除けか?」
「いーやタンブル、ありゃあ猫よけだ」
「カーバ、笑えないからやめてください」

騒いでいる男どもを放って、ランペルティーザとシラバブは
コインを吊っている家の傍まで歩いて行った。

「取れそうですか?」
「んー、そこに登れば届くかも」

身軽にするすると庭木に上り、ランペルティーザは
小ぶりの枝から、微かな風で揺れているコインに手を伸ばした。

「気を付けてくださいね!」

下からシラバブが声を掛けてくる。
ランペルティーザは懸命に手を伸ばし、その爪がかちりと金属に触れた。
その瞬間。









「何か来たわ」

ヴィクトリアが声を潜めて言った。
暗い夜空に、ひときわ黒い影が浮かぶ。

「鳥?こっちに来るね。でも、こんな夜に鳥なんておかしいよ」

スキンブルシャンクスが警戒するように体勢を低くする。

「この辺じゃあ夜行性の猛禽類なんてのも出ないからな」
「だったらこれがイベントじゃねえの?」

ランパスキャットとラム・タム・タガーも警戒態勢を取った。

「どうするの?」
「とりあえずよける!」

ヴィクトリアからの質問にランパスキャットが答えた直後、
想像以上に大きなものが5匹の頭上を横切った。

「・・・やなイベントだね」
「そのイベントとやらをクリアしないとコインはもらえないのかい?」

スキンブルシャンクスとジェニエニドッツは嫌そうな顔をする。
その間にも、大きな鳥はまたこちらに向かってきそうな気配だ。

「今度はどうするの、ランパス?」
「一発殴る」

ランパスキャットはぐっと拳を握った。
鳥は右斜め方向から風を切って夜空を滑り下りてくる。

「来い!」

普段の緩慢な動きからは考えられないくらい素早い動作で
ランパスキャットの攻撃が繰り出される。
それは確かにクリーンヒットした。

「・・・効いてなくね?」
「効果があったかはちょっと疑問だね」

タガーとスキンブルは茫然として舞い上がっていゆく鳥を目で追った。









「あ!カラス!?」

突然、黒い羽根をもった鳥のようなものがランペルティーザ目指して
一直線に滑空してきた。
ランペルティーザの脚は驚きに竦み、咄嗟には動けずにいる。

「何をしている!」

ぐいっとランペルティーザを抱え上げたのはタンブルブルータス。
何のためらいもなく、木から身を躍らせ難なく着地する。

目の前から獲物が消えた鳥らしきものは、いったん空に舞い上がり
体勢を立て直すと改めて猫たちに向かってくる。

「ふん、やる気満々だな。どうする?」
「どうもこうも、こんな時のためにこれがあるのでしょう?」

ギルバートは慣れた手つきで槍を構えた。
ハッと気合を入れて、柄の部分を鳥に叩きつける。
ギャッと鳴いて、鳥は慌てて空に舞いあがろうとする。

「逃がすか!」

すかさずカーバケッティが二発目を浴びせる。

「うむ、ナイスコンビネーション」

地面に落ちてのびた鳥らしきものを見てタンブルブルータスが呟いた。









「あら?何かふらふらしているわ」
「確かにねえ。おや、高度も落ちてきたんじゃないかい?」

空を見上げていたヴィクトリアとジェニエニドッツが口々に言う。

「時間差で効いてきたのかな。タガー、何とかしてよ」
「なんで俺なんだよ、やっつけんのはランパスの専売特許だろうが」
「阿呆、そんな特許いらん。あいつはお前にくれてやる」

仕留めそこなって機嫌が悪いランパスキャットにどつかれて
タガーは地面に降りてきた鳥に気配を殺して近づいた。

「覚悟しろ鳥野郎!どつかれた恨み!」

見事な蹴りが決まった。
細身で手足の長いタガーが繰り出す回し蹴りはなかなか美しい。
大きな鳥は声も立てずに伸びてしまっている。

「どうするの?これ」

ヴィクトリアが近づいてきて訊ねる。

「イベントをクリアしたらコインが貰えるってのが常套じゃないの?」

スキンブルシャンクスは小さく首を傾げた。









「ギルバートさんもカーバケッティさんもかっこよかったですよ」

シラバブが目を輝かせる。

「あれくらいなら」
「うん、ちょろいくらいだ」

ギルバートもカーバケッティも胸を張る。
幼子からとは言え、尊敬のまなざしを向けられるのは悪くない。

「とりあえずこれで改めてコインをとればいいのね?
 そうだタンブル。さっきはありがとね」

言うが早いか、ランペルティーザは同じ木に登ってコインを手に取った。
すると、伸びていた鳥がしゅうっと音を立てて白い煙に変わる。

「消えた?」
「消えた!」

カーバケッティの呟きとランペルティーザの叫びが重なる。

「コインが消えたわ!それと同じ白い煙になって消えたの!」
「落ち着けランペル。タンブル、どういうことか確かめてくれ」
「ああ」









「コインが消えたらしいわ」
「大丈夫だよ。向こうの世界で消えたコインはこっちの世界に現れるから」

ミストフェリーズの言葉をカッサンドラがタンブルブルータスに伝える。

「それなら今頃スキンブルたちもコインを見つけているかもしれんな」
「ええ、そうね」

一歩前進。
そう捉えて、マンカストラップをはじめとする街の猫たちの表情が少し和らぐ。









何も起きやしない。
ということは、本当に偶然間抜けな鳥に襲われただけなのか。

「寝ぼけていたのかしらね」

ヴィクトリアが不意に動かない鳥へと手を伸ばした。

「あ、おやめよヴィク」
「伸びたふりしてるだけかもしんないし」

ジェニエニドッツとスキンブルシャンクスがすかさず止めに入るが、
ヴィクトリアの好奇心は留まることを知らない。
柔らかいであろう腹のあたりに、白く細い手を伸ばす。
触れたか触れないかというまさにその時、
ボムンと締りのない音がして鳥はどこかに消え、辺りは煙のような白いものに包まれた。

「げほ・・・全く、現実的じゃないよ」
「今更現実感を求めても仕方あるまい」

噎せ返り、涙目になったスキンブルシャンクスの呟きに
不機嫌そのものの声でランパスキャットが応じる。

「ん・・・あら?これ、コインじゃない?」
「みたいだな。おいおい、こんなイベントがあと何個続くんだよ」

既にうんざりした様子のタガーがため息混じりに言う。
コインは街灯の光に煌めいているが、この状況では美しいと思えない。

「全員分だって言ってたよ。ってことは、あと四回だね」

目じりに溜まった涙を拳で拭って、スキンブルシャンクスが答えた。
それを聞いても表情を変えなかったのはヴィクトリアくらいで、
ほかは猫たちは心底嫌そうに表情を歪ませている。

「仕方ないと思うけどねえ。おや、また来たようだね」
「この際マキャヴィティとかじゃなけりゃいい」

ジェニエニドッツが闇の向こうの気配に気付いて目を凝らせば、
ランパスキャットは諦めたように空を仰いだ。









「これで四つだな。あと一つ」
「こんなに趣味の悪い世界があるとはな」

気合を入れなおすカーバケッティの横を歩きながら、
タンブルブルータスはどんよりとした表情で呟いた。

「景色はそれなりに綺麗なんですけどね」

ギルバートは苦笑しながら辺りを見回している。

「最初のあの奇妙な鳥はマシな方だったってわけね。
 だいたいさっきのは何?ライオンが"ライオンッ!"て鳴くわけないじゃない
 ピ○チュウじゃないんだから!」
「せめてもの自己主張だったのではないでしょうか。
 ライオンに見えないから名乗ってみたのでは?」

ランペルティーザとシラバブは言いたい放題。
夢の魔導師の想像力と創造力にはやや問題があるようだ。
むしろ、発想が逞しすぎて現実を大きく超越したのかもしれない。

「おお来た来た。こりゃあまた大量だな」

うごうごと何かが集団でやってくる。
黒くて、てかてかと油っぽく、音もなくさかさかと近づいてくる奴ら。

「Gね、G。ちょっと妙だけど」
「大切なのは雰囲気ですからね」

ランペルティーザもシラバブも、もはや怖がっている様子はない。

「珍妙な方々ですが、数が多いのはいただけないですね」

槍を構えたギルバートが言うと、タンブルブルータスが頷く。

「おばさんでもいてくれれば良かったのだが」
「じゃあ、向こうの世界に期待すればいい。
 こっちで敵が出没すると向こうにも出没するって話だし、
 リンクしてんなら、向こうで攻撃するとこっちの敵にもダメージがあるんだろう?」

くるりくるりと槍を弄びながら、カーバケッティは悠長に話す。

「おばさんは攻撃するっていうより従えるって感じよね。
 あの集団が私たちに従ってる図なんて見たくないわ」

きゃらきゃらとランペルティーザは笑う。
暢気なものだ。

「それならそれでいいと思いますが、襲ってきた場合は反撃するしかないので
 あまり気を抜かないで下さいよ」
「了解、ギル隊長どの!」

ランペルティーザが元気よく敬礼すると、シラバブもそれに倣う。
溜め息をつくわけにいかず、ギルバートは苦笑を零した。

「おい、ギル!早速第一号だ!」

ぶぅんと羽音を立てて、黒光りするものが向かってくる。

「自分で片付けて下さいよ!」

カーバケッティに文句を付けながらも、ギルバートの一撃は的確に黒い物体を捉えた。
がすっと鈍い音がして、黒いものはころりと地面に転がる。

「一発KOだな。だが、まだあれだけいるぞ」
「むしろ、さっきより増えてないか?」

タンブルブルータスとカーバケッティは遠い目で黒い集団を見やった。









「こりゃあまた壮観だな」
「これだけいたら気持ち悪いね。さすがに僕でもひくよ」

ごきぶりの大量発生に、ラム・タム・タガーとスキンブルシャンクスは
心なしか引き攣った表情で僅かに後ずさる。
ヴィクトリアは少し離れた場所で眉を寄せたまま近寄ろうとすらしない。

「おばさん、任せた」

己の出番ではないと、ランパスキャットも一歩下がった。

「はいよ。あんたも苦手なクチかい?」

くくっと喉をならして、ジェニエニドッツは楽しげに笑う。

「さあて、どうやってあの子らをしつけりゃいいのかね。
 数が多いからちょっと面倒だけど。あ、ちょっとそこのあんた!」

皆が、ジェニエニドッツに呼び止められた何者かに目を向ける。
それは、枯れ葉の溜まった排水溝の中にいた。

「ネズミさんね」
「普通なら猫はネズミの天敵なんだよね」
「おばさんは敵じゃねえって認識があんだよ、ここいらのネズミは」

ヴィクトリアとスキンブルシャンクス、ラム・タム・タガーは
遠巻きに成り行きを見守っている。

「数には数で対抗する、か?」
「そんなところかね。あんた、仲間一杯連れてきてくれないかい?
 あの子らと追いかけっこしてほしいんだが」

束の間、ジェニエニドッツと蠢く黒い集団を交互に見ていた灰褐色のネズミは、
心得たとばかりに頷くとカサカサと僅かな音を立ててどこかに走り去って行った。









「お、何だかおとなしくなったぞ」

槍を振り回しながら、カーバケッティが呟いた。
蠢く黒い集団からは、ひっきりなしに昆虫類らしい何かがこちらに向かってくる。
精々、ギルバートの槍術の訓練程度にしかならないほど手ごたえのない相手だが
いかんせん数が多くてキリがない。
途中でカーバケッティやタンブルブルータスも武器を取って相手をするが、
集団が僅かなりとも少なくなったようには見えなかった。

「向こうで何か始まったのかもしれませんね」
「おばさんじゃない?ほら、あっという間に静かになったわ」

シラバブとランペルティーザはほっとしたように黒い塊を見やった。
延々と槍を振り回し、得体のしれない油っぽい昆虫とやり合うのも
そろそろ厭になっていたのだが、解決方法がまるで思い浮かばなかったのだ。









「ほら、言うこと聞きな!じゃないと齧らせるよ!」

ゴキブリらしき集団を相手に、ジェニエニドッツは見事な立ち回りを見せる。
その勢いに押されたか、烏合の衆であるはずのゴキブリたちが
ネズミの集団に追い立てられ、ジェニエニドッツに叱り飛ばされて
恐れをなしたかすっかりおとなしく言うことを聞いている。

「こえー・・・」
「タガー、聞こえるよ」

遠巻きに見ているラム・タム・タガーとスキンブルシャンクスは、
尊敬と畏怖を交えた目でことの次第を見守っている。。

「従わせてもコインは手に入れられるのかしら」

ヴィクトリアがぽつりと疑問を漏らす。
確かに、今までは相手を叩きのめしてコインを手に入れて来たのだ。
従順にさせることがイベントのクリア条件かどうかなんて誰にもわからない。

「おばさんなら何とかするんじゃなねえの?」

ラム・タム・タガーは何一つ根拠のないことを口にする。
だが、それに対しては誰も反論しない。
異論はないということだ。
期待半分、確信半分といった面持ちで頼もしいおばさん猫に視線を送っている。

「さてと、あんたたち。コインを渡してもらおうかね」

堂々と立ちはだかるジェニエニドッツの前には、整列したゴキブリの集団。
なんとも珍奇な絵図と言えよう。

「脅しじゃねえの?」
「手段は選んでられないからね」
「・・・やっぱすげえ」
「今更だよ、タガー」

タガーとスキンブルシャンクスがぼそぼそと言葉を交わしていると、
突然ヴィクトリアが短く悲鳴を上げた。
ぽんっと何かが弾けたような音がしてゴキブリたちが消えてしまったのだ。

「驚いたわ」

そう言いつつもヴィクトリアは冷静なものだ。
周りでは、ネズミたちが蜂の巣をつついたような大騒ぎを起こしている。
今度はネズミたちを鎮めるのに精を出すはめになったジェニエニドッツの横を通り抜け、
ランパスキャットが、道の真ん中に転がった丸いものを拾い上げた。

「よくわからんが、とりあえずこれで終わりだ」




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Jellicle Warrior 第三弾!

がんがん飛ばしていきます。
ひとつ倒したと思ったらもう王手。
突っ込みどころ満載過ぎて何から言い訳をしようか。

おばさんって強いですよね。
ヴィクトリアは全て好奇心ありきで行動しそう。
あれ、スキンブルが活躍してない。。。
きっとこの間の見えないところで大いに活躍したんですね!

夢世界組は完全分業ですね。
戦うのはギルとカーバ。タンブル絶対強いのに!
ランペルはスイッチヒッターですかね。
バブは応援係(笑)肝が据わっているので応援されると心強そう。

さて、次で最後。のはず。
本当は三部作だったんですよ、当初の予定だと。
纏めるのが下手で困りますねー。


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