夕間暮れの丘の上で
Somewhere over the rainbow bluebirds fly,
夕暮れの丘に透明な声が優しく響く。
ギルバートはゆっくりと歌う彼女に近づいていった。
Birds fly over the rainbow, why then, oh why can't I?
「きれいですね」
「私が?」
振り向いたジェリーロラムは悪戯っぽく笑って言う。
「そうですね、あなたも。あなたの歌声も」
「褒めても何も出ないわよ」
「そうですか?僕はあなたの笑顔がじゅうぶんなプレゼントだと思ってますよ」
「かなわないわ」
ジェリーロラムはくすっと笑うと、ギルバートに隣にどうぞと手招きする。
「ここが好きなんですね、よくここで歌ってますし」
ギルバートは手にしていた殺陣練習用の棒を傍らに置きながら言う。
「そうね、ここで歌っても迷惑にはならないでしょう?」
ジェリーロラムは夕日の眩しさに目を細めながら遠くに視線を向けた。
「練習場で歌っていても声を客席まで届ける感覚が掴みにくいのよ。響きすぎるのね。
だから時々ここで歌うの、大きい声じゃなくて通る声を鍛えるために。
あの向こうの方に見える山にまで届くくらいね」
舞台女優のジェリーロラムにとって歌声は生命線とも言える。
あのガスが育てた若手の有望株。
女性に見向きもしなかったギルバートが唯一振り向いた女優だった。
「先日のステージはすごく良かったですよね。僕も早く舞台に上がりたいと思いましたよ」
「ガスはギルに期待しているのよ。期せずして厳しくなってしまうって、少し前に言っていたわ」
「ありがたいことです」
いつものように柔らかい笑顔を見せるギルバート。
優しくて我慢強い俳優の卵。
誰にも弱音を吐かず、見えないところで頑張っている陰の努力家なのだ。
年下には目もくれなかったジェリーロラムが惚れ込んだ好青年。
ジェリーロラムは彼にそっと寄りかかった。
こうしていられる時間がとても好きだった。
「ねえ、ギル。」
「どうしましたか?」
そっと彼女の肩に腕を回すギルバート。
とても愛しそうに、大事に抱え込むように。
「今日はギルがすごくかっこよく見えるわ」
「だとしたらそれは夕日のせいですね」
さらりと流してしまうのはいつものこと。
せっかくの褒め言葉もあんまり意味ないか、とジェリーロラムは苦笑する。
「好きですよ」
「それはまた…えらく唐突ね」
「もうすぐ陽が沈みますから」
「あんまり関係なくない?」
ジェリーロラムはきょとんとしてギルバートを見上げる。
ギルバートは微笑んでジェリーロラムを見る。
「夕日のおかげで僕が格好いいとしたら、格好いい間に言っておかなければ」
「もう、どういう理屈よ」
くすくす笑い出すジェリーロラム。
それに併せて小さく揺れる彼女の身体、そのリズムがギルバートには心地よかった。
傍にいるだけでこんなに幸せであれる。
だからこそずっと傍にいたい。
山の端に沈んでしまいそうになっている夕日。
黄昏の優しい光の中で、そっと唇を重ねるふたり。
夕間暮れの丘の上。
聞こえるのは入相の鐘ではなくて、透き通った歌声。
If happy little bluebirds fly beyond the rainbow…
ギルバートは俳優志望。
ジェリーロラムは女優。
とあるオフ企画に参加した作品なので、
ギルバートとジェリーロラムでカップリングしてみました。
著作権まずいかな。。。