Are you notorious couple of cats?

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最終更新日: 2018-11-11
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Are you notorious couple of cats?



ガチャンと大きな音がして、何事だとヒトが家に明かりを灯す。

「またあいつらか!」

悔しそうに叫ぶ声を聞き、マンゴジェリーとランペルティーザは顔を見合わせ頷きあった。
今夜も泥棒稼業は順調なことこの上なし。

「あとは帰り着くのみ」
「今日は楽勝でしょう」

いつもの逃走ルート、追い詰められたら撒くためのコース立ても完璧。
追ってはいつも決まって同じ、苦労性の若リーダー。

「行きますか」
「行きましょう」

悪名高い泥棒猫たちは、ずだ袋を引っ提げて走り出す。
この速さに敵うものはほとんどいない。

「右よーし、左よーし、追っ手なーし」
「快調、快調」

あと二つ、ブロックを過ぎて右に曲がれば住家はすぐそこ。

「ちょっと止まってもらおうか」

不意に聞こえた声に、それでも足は緩めない。
次の瞬間、曲がり角から飛び出してきた二つの影。

「止まれランペル!」
「マンゴ、逃がしませんよ!」

立ちはだかるのはカーバケッティ、ギルバート。
まさか急には止まれない。

「ぶつかるわよ!」
「ご安心、がっちり受け止めてやる」
「危ないだろーが!」
「ご心配なく、僕は平気ですから」



「ちょっと待ってよー!」

ランペルティーザの絶叫は、カーバケッティの腕の中でフェードアウト。

「待て待て、得物は反則だろー!?」

マンゴジェリーの慌てた声も、軽い衝撃と共に地に沈んでいた。

「ギル、それで殴ったのか?」

カーバケッティが、木の棒を弄ぶギルバートに声を掛ける。

「違いますよ。そんなことしたら痛いでしょう?」
「・・・それを使うと見せかけて、足を引っ掛けるとはな」

打った額をさすりつつ、マンゴジェリーなんとか復活。

「カーバとギル、何しに来たの?」
「何って、悪戯っ子を捕まえに」

さらっと言ってニヤリと笑うカーバケッティ。

「マンカスが隣り街に出張中でして、僕らに見ておくように言って行ったんです」
「ああ、そう」

どうりでマンカストラップを見ていないわけだ。

「で、これからどうすんだ?」

マンゴジェリーが問い掛ける。

「どうしようかな、しょっぴいて行く先もないし」
「カッサやランパスは見逃す派ですし」
「おばさんはゴキ相手に奮闘中ときた」

つまり、あてはない。
捕まえっ放しとはこのことか。

「じゃあ、一応質問。今日はどこから盗んできたんだ?」
「向こうの大きい家、レンガの煙突があるところ」

ランペルティーザが悪びれもせず。
カーバケッティは、夜空を仰いで大きく溜め息。

「僕も聞いていいですか?」

かつんと、棒の一端を地につけて。
ギルバートの目は泥棒猫たちに向く。

「今更根本的な質問ですが、なぜ盗みを働くんです?」

ただの疑問。
目を丸くしたのはランペルティーザ。
苦笑いはマンゴジェリー。

「聞きたい?」
「聞いたら俺たちを追いかけられなくなるかもよ」

ふたりしてニッカと笑い、質問者の反応を伺う。

「もともと追いかける趣味はありませんから」

あっさりと、嫌味な笑みを浮かべながら。
泥棒猫たちは顔を見合わせ、それならばと目配せをする。

「私たちの住家に来る?ここじゃあんまりだし」
「こんなもん提げてうろつくわけにもいかないし」
「だったら盗まなければいい」

カーバケッティの正当な意見は特に意味をなさず。
歩き出した仲間たちを追い、ぶち猫はやっぱり溜め息。

「このまま住家に行くということは、僕らは泥棒行為を見逃すことになりますね」
「まあな。もとからどうしようもなかったけどな」

結局、今夜も泥棒稼業はまがいなりにも成功を収め。
マンゴジェリーとランペルティーザは見事住家に辿り着く。

「そこに座っていいわよ」
「尻が痛けりゃ毛布なり適当に敷いてくれ」

どこから手に入れたのか、良い匂いの紅茶が差し出され。
泥棒猫たちの物語が始まった。





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暗い路地裏で震える汚れた子猫。
やせ細った身体で、それでも瞳だけはきらきらと輝かせて。
生きるのだと、その子猫は声にならない叫びを上げていた。

初めて子猫を目にしたマンゴジェリーは、その時すでに青年だった。
瞳の輝きが忘れられず、毎晩様子を見に行った。
感じていた、自分に必要なのが小さな子猫だと。



「こらー!」

人間の怒鳴り声。
ランペルティーザは反射的に振り返った。
お腹が空いている、痛みを感じるほどに。
もしも、人間や犬に追いかけられたら逃げられない。

「生きるんだもん」

呟いた声は弱々しくて。

「そうそう、生きなきゃな」

妙に間延びした声。
ランペルティーザが視線を巡らした先に、大きな雄猫が立っている。
知っていた。
このところずっと、彼女を見つめていた赤毛の虎猫。

「何しにきたの?」

精一杯の威嚇。
こんなもの、怖くなんてないはずだ。
ランペルティーザ自身がそう感じつつ、だからと言ってどうしようもない。

「まあまあ、そう警戒すんなよ。ってのも無理か」

明るい声で笑い、おいしそうな肉を投げてよこす。

「ちょっとばかりいただいてきた。うまいぞ」

良い匂いが鼻腔をくすぐる。
ランペルティーザは思わず肉にかじりついた。
誰かに恵んでもらったとか、プライドとか、そんなことより生きなければならなかった。

「俺マンゴジェリー。この街に住んでるんだ、仲間にならないか?」

必死に食べるランペルティーザの耳に、雄猫の言葉が入ってくる。

「仲間って何?仲間って怖いものでしょ?」

睨まれたマンゴジェリーは、子猫の瞳に怯えの色を見た。
理由はわからない、ただ子猫は仲間という言葉を嫌った。

「・・・ここの猫たちは皆特別な輝きを持っているんだ。誰も君を傷つけたりいじめたりしない」

なるべく分かりやすい言葉を選びながら、マンゴジェリーは諭すように言う。

「・・・私は信じない」

子猫はかたくなにマンゴジェリーの言葉を拒否した。
次の日も、またその次の日も、子猫は強い瞳で拒否し続けた。
それでも、マンゴジェリーを拒んだわけじゃない。
ある日、子猫は言った。

「わたしね、ランペルティーザっていうの」

ようやく告げられた名前。
マンゴジェリーは嬉しくて仕方なかった。
少しずつ、心が通じ合ってゆくことが純粋に嬉しかった。
またある日、ランペルティーザは言った。

「マンゴはどうしてお肉を盗んでくるの?」
「んー?ランペルにあげたいからかなあ」

笑って答えると、ランペルティーザは真顔になった。

「でも、盗むのは悪いことだって教えてもらったよ?」
「まあ・・・そりゃそうだけど」

言葉を濁し、カリカリと頬をかく。



そしてまた月日は流れた。

ある雨の日。
冷たく降り続く雨は一向に止む気配がない。

「マンゴ、どうしたの?」

苛々と外を見ているマンゴジェリーに、みかねて声をかけたのは幼馴染みのボンバルリーナ。

「例の子猫のことが心配?昨日も会いに行ったんでしょう?」
「いや・・・会えなかった」

ランペルティーザもどこかに身を隠しているのだろう。
ここ数日は姿を見ていない。

「やっぱり行ってくる」

マンゴジェリーは身を翻し、飛び出していこうとした。
ボンバルリーナがその前に立ちはだかる。

「止めても無駄だから止めないけど、あなたも気をつけて。
 毎晩冷たい雨にあたるのはほんとに良くないのよ。
 それからもう一つ」

ボンバルリーナは黒い外に目をやった。

「マンカスが昼間にレストランのゴミ置き場で小さな猫を見たと言っていたわ。
 違うかもしれないけど、闇雲に探すよりはいいでしょ」
「レストランの・・・わかった、ありがとうリーナ」


疾風のようにマンゴジェリーは走る。

「ランペル、どこにいる!?」

怒鳴るように、雨の夜に叫ぶ。
バシャリと水に脚がはまっても、泥がはねても走り続ける。
それは気配というより、悪寒だった。
脚が止まったのは、動かない小さな身体が見えたから。

「ランペル!ランペル大丈夫か!?」

後にも先にもないだろうというくらい慌てて、マンゴジェリーはランペルティーザを抱き上げた。

「ランペルティーザ、すぐに教会に連れて行ってやるからな」

教会へと急ぎながら、マンゴジェリーは言った。
オールドデュトロノミーか、ジェニエニドッツがいれば介抱してくれるはずだ。

「・・・ダメよ」

微かな声。
マンゴジェリーは脚を止めた。

「私は仲間じゃないもん」

この期に及んでも、まだランペルティーザは仲間になることを拒んでいた。
マンゴジェリーはきゅっと下唇を噛んで、わかったと小さく呟いた。
そして、濡れて冷たい小さな身体を抱きすくめ囁いた。

「仲間じゃなくていい。俺のパートナーになってくれ。俺はどこにもいかない、ずっと傍にいるから」

降りしきる雨。
冷たくてどうしようもない。
でも、ランペルティーザは初めて温かさを感じた。
初めて、自分を大切に思ってくれる存在に出会えた。
小さな手で、マンゴジェリーの濡れそぼった毛並みを握り僅かに頷いた。

「うん、いいよ」

小さな声。
マンゴジェリーはしっかりと聞き取り、教会に急いだ。
守りたい、初めて心の底から感じた。



「何か栄養のあるものがいるね」

ジェニエニドッツが言う。
心配そうに覗き込んでいたボンバルリーナやカッサンドラが首を横に振った。
雨が続いて食糧が少ないのだ。

「俺、持ってくる」

毛布にくるまっていたマンゴジェリーが立ち上がった。

「あるの?」
「ヒトは色々持っている」

堂々と、盗むと言う。ジェニエニドッツは聞かないふりをし、カッサンドラとボンバルリーナはそれぞれに苦笑する。

「盗んでいいわよなんて言えないけど、命より大切なものはないものね」
「マンゴがそんなにやる気になってるなんて、滅多にないわ」

咎めないと、遠回しに伝えられてマンゴジェリーはニヤッと笑みを浮かべた。

「ランペルは俺が助ける」

一言残し、赤毛の身体は窓から闇に消えた。





「またお前たちか!?」

今日も人間の怒鳴り声がどこからか聞こえる。
ランペルティーザの身体能力はマンゴジェリーも驚くほど。
生きるために、食糧や布切れをくすねて。
いつしかそれは、マンゴジェリーとランペルティーザの御家芸となっていた。





「待て、今日という今日は逃がさないぞ!」
「いつになくしつこいわね」
「あいつ、脚速いな」

ある星空の夜。
街を疾走する泥棒猫と若い縞猫。

「そう簡単に捕まるかって」

後ろを振り向き、また前を見た瞬間。
マンゴジェリーは衝撃で尻餅をついた。
ランペルティーザが何やらわめいている。

「懲りないやつらだな」

低い声。
サブリーダーの白黒斑猫。
マンゴジェリーが勢いよくぶつかったのに表情一つ変えない。

「マンゴ、ランペル。追いついたぞ」

肩で息をしながらマンカストラップが走り寄ってきた。

「挟み撃ちなんて卑怯よ!」
「賢いやり方と言ってもらおうか」

マンカストラップは有無を言わせない威厳を漂わせ、それはそれは素敵な笑みを浮かべた。

「こえ~…」

思わず本音を零すマンゴジェリー。
ランペルティーザは顔を引きつらせて固まっている。

「盗むなと言っただろう!?」

雷が落ちた。
雷雲もない穏やかな夜なのに。

「少々なら目をつぶるが度を越してもらっては困る」

ヒトと街に共存するのだから、マンゴジェリーやランペルティーザでなくても
時にはヒトのものをちょうだいすることはある。
そう、生きるために。

「ランパスも何とか言ってくれ」

息巻くマンカストラップは、黙って立っている斑猫に言う。

「・・・諦めてはどうだ?」
「俺にじゃない!」

どうしてなかなかランパスキャットはかなり寛容だ。
ただ干渉が面倒なのかもしれないが。

「マンカスにはわかんないよ。私が色々盗む理由なんて」

ランペルティーザが呟くように言った。

「女の子はね、みんな綺麗になりたいの。
 ボンバルとかヴィクみたいに何もしなくても綺麗な猫がいる。でも、私はただの虎猫だから」

首にかけたイミテーションの真珠のネックレスをきゅっと握り締めて。
大きな瞳がマンカストラップを睨み付けるように見つめる。

「綺麗になりたいの、馬鹿らしいでしょ?外面だけは変えられないの、だから飾りたいのよ」

じっと聞いていたマンカストラップは、ふっと息を吐いてマンゴジェリーに目をやった。
お前はどうなんだと言わんばかりに。

「俺はランペルのパートナーだから」

ランペルティーザの望みはマンゴジェリーの望み。
マンゴジェリーの楽しみはランペルティーザの楽しみ。

「言い分はわかった」

夜空を仰ぎ、マンカストラップは黙ってしまった。
それを見たランパスキャットが口を開く。

「こんなことを言えばマンカスには怒られるかもしれないが。
 盗みを働いているお前たちは楽しそうだし、輝いていると俺は思う。
 だが、あまり危ないことはしないでくれ」

マンゴジェリーとランペルティーザは顔を見合わせて。

「俺、泥棒に入る時のランペルが一番輝いてると思ってた」
「わたしは泥棒する時のマンゴが一番良い顔だなって思う」

だから泥棒は止められない。
ニッと笑いあう二匹の虎猫。

「まったく・・・仕方ないやつらだな」

マンカストラップはやれやれと泥棒猫たちを見て。
そして、ふと真顔になった。

「だが敢えて言わしてもらおう。悪いものは悪い、俺はリーダーとして許せないこともある。
 仲間たちに迷惑をかけるかもしれないし、マンゴとランペルが危険に巻き込まれても困る」

厳しいけれど優しい言葉。
マンゴジェリーは苦笑、ランペルティーザは小さく声を立てて笑った。

「わたしね、マンカスのそういうところが好き。悪いことは悪いって、はっきり言ってくれるところ。
 ランパスの大雑把な優しさも好きよ」

ころころと笑うランペルティーザは憎めない。
一緒になって笑うマンゴジェリーの笑顔には文句を言えない。

「・・・今夜はもう帰って休もう」
「いいのか?」
「まあ、いいだろう」

楽しそうに笑う泥棒猫たちに背を向けて、マンカストラップは小さく溜め息をついた。
追いかけっこはこれからも続く、それは確かなのだと思いながら。





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「・・・マンゴは小さな女の子が好きなんですか?」

物語に一区切りと、すっかり冷めた紅茶のカップに口を付け。
ギルバートの的外れな質問にマンゴジェリーは思わず噴き出した。

「なんでそこに飛躍すんだ?」

確信犯と知ってはいても。
どっと疲れて残った紅茶を一気に飲み干した。
ランペルティーザは楽しげに笑い、カーバケッティは微かに苦笑。

「俺たちが盗みを働く理由がわかったか?」
「ギルには難しいんじゃない?」

ランペルティーザに言われても、ギルバートは軽く笑って受け流す。

「深いところはわかりませんが、僕も盗みを働いているあなたたちが一番輝いていると思います」
「そうだよな」

カーバケッティが相づちを打つ。
マンゴジェリーとランペルティーザは誇らしげに胸を張る。
泥棒稼業は天職だ、今日も彼らは憚りなく言うのだが。

「理由があっても正当化されないことはあるんだけどな」
「その通りですね」

珍種雄の三毛猫たちはなかなか食えない。
それでも大概見逃す自称紳士のぶち猫と、正しくないことには厳しい茶白黒の小柄な三毛猫。

「時にギルバート、もしもタントのハートを盗んできてやると言ったらどうする?」
「やる気になったらできちゃうかも」

できないことはないのだと、泥棒猫はのたまった。
パチクリと一つ瞬いて、ギルバートは柔らかに笑う。

「常々タントから直接いただいていますから」

だから必要ないのだと、あっさり言ってのけるのだ。
ご馳走様と、呆れた顔で言い捨てるのはカーバケッティ。

「ギルはいつもタントの心を盗んでいるのね」
「タントだっていつもギルの心を奪ってる」

虎猫たちは嬉しそうに言い合って、互いの目線を交わらす。

「わたしはマンゴが大好きよ」
「俺はランペルが大好きだ」

だからって、恋はじゃない。
もっともっと、特別なのだ。
二匹でいると幸せで、一番輝いていられる。



マンゴジェリーとランペルティーザ、二匹は誠にジェリクルキャッツ。
マンゴジェリーとランペルティーザ、あの悪名高きカップルの。


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マンゴジェリーとランペルティーザの出会いから泥棒猫になった経緯をざっと。
・・・という話でもなくてですね。
「悪名高きカップルだ♪」というようなことを誇らしげに歌う二匹っていいなあと思って書いた話です。

彼らには彼らなりに盗みを働く理由があるはず。
そして、追いかけるマンカストラップたちにもそれぞれ思いはあるはず。
そんなことを考えてみました。

間に挟んだ過去話は別として、テンポよく読めるように書こうとしました。
が、リズムと書きたい内容がうまくかみ合わなくて撃沈。
日本語ムズカシイ。。。

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