Jellicle Cooking

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最終更新日: 2018-11-11
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【赤】怪気炎

ヴィクトリアの頭痛

ヴィクトリアの心中は複雑だ。
親友のランペルティーザと同じチームなのは嬉しい。
慕っているマンカストラップが同じというのも素直に喜ばしい。
そして、何とは無しに好意を抱いている黄色いマキャヴィティもいる。
他の猫ならいざ知らず、ヴィクトリアにとっては良い面子だ。
ただ、それもこういう場面で無ければの話であって、
この場合は少々厄介な面子と言わなければならない。

「困ったな、俺はこういうのが不得手なんだ」
「大丈夫よマンカス。だってヴィクがいるもの。ね?」

無根拠に楽天的なのは、ランペルティーザの美点である。
何事も考え込む性質のヴィクトリアは常々そう考えている。
ただ、その楽観の先が己に向いている以上はそうも言っていられない。

「そうか、助かるな。ヴィク、よろしく頼むぞ」
「あまり自信は無いのだけど」

そう。このメンバーの中では比較的ましということであって、
ヴィクトリアに菓子作りの腕に覚えがあるかと問われればノーだ。

「すまない。俺も全くダメなんだ」
「謝ることじゃないわ。一緒に楽しみましょう」

マキャヴィティは随分と年上なのに、ヴィクトリアは彼に対しては
何故だか保護者のような心持で接してしまう。
どうやら、それはヴィクトリアだけでもないらしいが。

「私は材料を持ってくるわ。マンカスは調理道具を用意しておいて」
「了解。マキャ、ヴィクだけじゃ大変だから手伝ってやってくれ。
 ランペルは俺を手伝ってくれるだろう?
「もっちろん。で、何を用意するの?」

やる気はある。
チームワークもきっと悪くない。
だが、雲行きは甚だ怪しい。
マキャヴィティを連れて材料を選びながら、
ヴィクトリアは僅かな頭痛を覚えた。

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【黄】和気藹々

黒猫の笑み

「アイシングって何だっけ?」

まだ何も用意していない台に凭れかかるようにして
ミストフェリーズはジェリーロラムに問うた。

「簡単に言えば、砂糖の飾りみたいなものね。
 卵白なんかでといてクッキーに絵を描いたりできるわ」
「色んな色があって綺麗だよね。僕も好きだなあ」
「形も可愛いのがいいわ」

スキンブルシャンクスやジェミマもよく知っている。
楽勝だね、とミストフェリーズは満足そうにほくそえんだ。

「ミストは器用そうだからきっと絵を描くのも巧いよね。
 楽しみだなあ。僕は紅茶くらいしか用意できないよ」
「あたし紅茶好きよ。ジェリーのお菓子はすっごくおいしいし、
 このチームって凄く恵まれているわ」

ジェミマが嬉々として言う言葉に、そうそうと頷きかけて
ミストフェリーズは慌てて首を横に振った。

「僕がアイシング担当?何か地味だなあ」
「あら、地味じゃないわ。いちばん繊細な作業よ。
 あ、その魔法でちょいちょいっとやるのは無しね」

ジェリーロラムがウィンクをよこす。
可愛らしいから許す。
などとミストフェリーズは偉そうにそんなことを思ったわけだが、
てきぱきと指示を出し始めたジェリーロラムには頭は上がらない。
スキンブルシャンクスはきびきびと道具を用意し始め、
ジェミマは跳ねるようにして材料を取りに行く。

「じゃあ僕はジェミマを手伝ってくるよ」
「ええ、お願いね。ちょっと多めに持ってきて」

なぜ多めなのかジェリーロラムは言わなかったが、
聡い黒猫にはその理由はおおよそ見当が付いている。

「色んな色でアイシングしたら可愛いわね」
「そうだね。たまにはこういうのもいいかも」

快調な滑り出しだ。
そのうち、おいしい匂いで部屋が満ちるだろう。
黒猫は満足そうに尻尾を揺らした。

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【青】冷静無功

マンゴジェリーの疑問

どうも表情の硬いディミータと相変わらず無表情のタンブルブルータスを前にして、
マンゴジェリーとタントミールは顔を見合わせた。
微妙な空気だ。普段はあまり接点のない面子になってしまった。
ただ、付き合いは長いから互いの得意不得意はわかっているというもの。
マンゴジェリーは街の猫たちの中でもかなり器用で何でもこなす。
お菓子作りも例外ではない。
タントミールもお菓子作りはどんと来いだ。
彼氏が大層喜ぶらしく、それで腕を上げた。
ディミータは、彼女曰わく食べる専門らしい。
タンブルブルータスなど、調理台の前に立つことすら無い。
ここは当然、菓子作りができて要領の良いマンゴジェリーが仕切りとなる。

「ジンジャークッキーというのは」

タンブルブルータスが思いだしたように口を開く。

「生姜が入っているのか?」

当たり前すぎて笑うことすらできずに、タントミールは至って普通に答える。

「そうよ。大抵はパウダーを使ったりするけれど。絞り汁でもいいかな」
「なるほど」

何に納得したのか、タンブルブルータスは小さく頷いた。

「そんじゃあ俺は道具用意しとくかな、タントたちは材料揃えてくれ」
「わかったわ。スパイスはジンジャーとシナモンがあればいい?」
「そうだな、他に良さげなのがあれば任せるから持ってきてくれ」

ディミータは不思議そうにマンゴジェリーを見て、おもむろに口を開いた。

「塩とコショウはいらないの?」
「へ?」

マンゴジェリーは呆けた顔をする。
斬新ねと呟いたのはタントミール。

「何故塩コショウ?」
「だって、あいつが大抵塩コショウしてりゃ間違い無いって言ってたから」
「ああ、カーバね」

マンゴジェリーは隣で既に疲れ切っている紳士猫に気の毒そうな目を向けた。

「まあ、そりゃ普通の料理ならそうかもな。今回はいらないと思うぞ」
「そう」

ディミータはあっさり引き下がった。そもそもが主張でも何でも無かったわけだが。

「それじゃあ行きましょうか」

タントミールに促されたディミータとタンブルブルータスが材料の調達に向かう。
そこでタンブルブルータスがふと足を止め振り返る。

「マンゴ」
「あん?」
「生姜は生とパウダーどっちがいい?」

果たして立ち止まって聞くほどのことか。
と、マンゴジェリーは思ったわけだがそんなことは口にしない。
ひとまず平和にことが終わればそれでいい。

「生で」

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【緑】男所帯

カーバケッティの憂鬱

「厭がらせか?厄日か?俺の日頃の行いはそんなに悪いか?」

カーバケッティは一種痛ましい表情で呻いた。
それを見たギルバートは気遣わしげに眉をひそめた。

「カーバ、そんなに苦痛ならばそれを押して参加することもなかったのでは?」
「そうだぞ。無理強いはしないってマンカスも言ってたし」

コリコパットも心配そうに言う。
ランパスキャットはカーバケッティの背をポンと叩いた。

「気分が悪いなら休んでおけ、待っておくから」

お前たちの気遣いは甚だしく方向性を誤っているんだとカーバケッティは言いたかった。
何あろう、この倦怠感の原因はここにいる面子のせいなのだから。

「大丈夫だ、お前たちに任せられないだろう」

大きく溜め息を吐いたカーバケッティは、改めてくじ引きで集まったメンバーを見やった。
華が無い。
地味だとは言えない、己がそうであるとカーバケッティがどこかで自覚していたゆえに。
それはさておき、上手くいく気は全くしない。
コリコパットには慎重さが欠如しているし、
ギルバートは思考も行動も直線的で融通がきかないし、
ランパスキャットは興味のない話を聞かない。

「いいかお前たち、俺を心配するなら俺の言うことを聞いてくれよ、頼むから」
「心配するな、お前だけが頼りだからな」

本当かよとカーバケッティは即答したランパスキャットに心中で突っ込みを入れた。

「そうですね、僕も真剣勝負でいきますよ」

そう言ったギルバートは、置いてあった麺棒をくるりと回してびしりと構える。
気合いと力でお菓子ができるなら完璧なものになるだろうとカーバケッティは思う。

「大丈夫だってカーバ。俺たちお揃いのエプロンで料理した仲じゃん」
「それは忘れたんだコリコ」

悲惨な記憶は封印するに限る。
きりきりと痛み始めた胃を庇うように、カーバケッティは調理台に手を突いた。

「とにかくだ、今から俺が言うものを揃えてきてくれ。
 器具は俺が準備するから。いいか頼むぞ」
「オッケ、何がいるんだ?」

カーバケッティは、地味な男ばかりの残念すぎるメンバーに必要な材料と分量を伝え、
どれかわからなかったらジェニエニドッツに聞くようにと付け加え、
念には念をということで復唱させた上で取りに行って貰った。

「独りの方が良かった・・」

ぽつりと零したカーバケッティの哀愁をあざ笑うかのように、
既に何かが起こりつつあった。

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【黒】白雲暗雲

カッサンドラの天下

「可愛いくて色がキレイなのがいいです」

などとシラバブが目を輝かせるものだから、手を抜くわけにはいかなくなった。
しかも、このチームを引っ張るのはカッサンドラだ。
ラム・タム・タガーもボンバルリーナも、この姉猫には強く出られない。

「せっかくだからクリスマスらしい型がいいわね。ツリーとか靴下とか」
「お星様とか煙突のあるおうちとか」

カッサンドラの言葉に食い付くシラバブは、楽しみでたまらないようだ。

「タガーはセンス良さそうだから、デコレーションは任せるわね」
「んな細かいことはできねえ」
「あら、やってみないとわからないわ。バブもそう思うでしょう?」

シラバブは大きく頷く。
幼子を味方に付けたカッサンドラにはもはや誰も勝てない。

「たまには作ってみるのもいいかしらねえ」

食べることにも作ることにもさほど執着の無いボンバルリーナは、
棒読みのような台詞を吐いた。

「仕方ねえな」

やる気も無いが、さして嫌でもなかったタガーも、
懐いてくれているシラバブと面倒を掛けてきたカッサンドラの手前、
渋々といった体を取りつつも彼にしては滅法素直にスタートラインに立った。

「ボンバルとバブは材料を用意してくれる?」
「わかったわ。分量は?」

カッサンドラが言う分量をシラバブが懸命に覚えようとしている。
そんな姿を微笑ましく思いながら、
ボンバルリーナは必要な材料を脳裏に思い描いていた。
どの材料も聞き覚えはあるし見覚えもある。

「覚えられた?」
「はい!」

元気なシラバブの返事にカッサンドラはにっこりとして、それじゃあよろしくと言った。
ボンバルリーナはシラバブの手を引いて材料を揃えに向かった。

「さてと、タガーには道具を用意してもらおうかしら」
「いいぜ。カッサはどうすんだよ」
「私はラッピング用のリボンなんかを揃えてくるわ。可愛いのは早い者勝ちだから」

さすがに容量が良い。
こりゃあ楽してうまいものが食えるなと、タガーのテンションは僅かに上がる。
彼が天の邪鬼だなんて言ってみても、世の中うまいものはうまいのだ。
いつになく上機嫌で、ラム・タム・タガーは必要な道具を並べ始めた。

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