Jellicle Battle
プロローグ
割れた窓ガラス。傾いた木製の扉。
吹き込んだ雨の跡。埃っぽくカビ臭い匂い。
散乱した小物。色あせ破れたカウチ。
倒れた椅子。ひびの入ったダイニングテーブル。
干からびた食料。
まごう事なき廃屋。
住人は夜逃げでもしたのか。
不安そうに辺りをうかがっている街の猫たち。
無邪気なのは幼いシラバブと、その少女の遊び相手になっているランペルティーザだけ。
ざわめきの中、リーダー猫がすっくと立った。
「俺たちは何で集められたんだ?」
早速口を開いたのは、冷静に状況把握に努めていたカーバケッティ。
「全員を集めるなんて、何か起きているの?」
厳しい視線を向けるのはジェリーロラム。
マンカストラップはただ重々しく頷く。
「さっさと言ったらどうだい?まどろっこしいのは厭になるね」
びしりと指摘するのは気の良いおばさん猫のジェニエニドッツ。
ここに呼び集められる直前までジェリーロラムやタントミールと一緒にいたために、
その場の流れで巻き込まれたのだ。
「・・・では、皆これを見てくれ」
おばさん猫の言葉で躊躇いを切り捨てたマンカストラップは、皆を見渡した後ですっと横に身体をずらした。
そこにあったのは、薄いセロファンに包まれた乳白色の塊。
欠けた木造のトレイの上に無造作に転がされている。
「チーズ、だね」
すん、と匂いを嗅いだスキンブルシャンクスが呟くように言うと、それを聞いた猫たちは色めき立った。
「欲しい!」
「あたしも。でも、なんか少なくない?」
身を乗り出したコリコパットとジェミマは、猫たちの数に対して少なすぎるチーズ玉を見つめ、
同時に顔を上げて窺うようにリーダー猫に目を向けた。
気付いたマンカストラップは僅かに微笑みを浮かべる。
「そう、見ての通りチーズで見ての通り数が少ない。これは長老からいただいたものだ。
長老は人間から貰ったそうだ。猫用ということだから身体に悪いこともない」
「七つしか無いし、黙って食っちまったらわかんなかったんじゃねえの?バカ正直だな」
鼻で笑うラム・タム・タガーをじろりと睨み、マンカストラップが何かを言おうと口を開くが、
その前に低い声が割り込んできた。
「タガーお前、正しい数を数えられるようになったのか」
「まあ、タンブル。彼はとっくにおとなになったのだから桁の変わらない数なんて数えられて当たり前だわ」
タンブルブルータスはカッサンドラに指摘されれば異論は無いらしく、
いつも通り愛おしげに彼女を見つめて優しく毛繕いを続ける。
「すげえバカにされてねえか?」
「まあ待てタガー、憤りは取っておけ」
「ああ?」
ベルトを鳴らして立ち上がろうとする派手な猫を押しとどめ、
マンカストラップはもう一度皆を見回した。
「皆これを食べたいだろう?だから、ランパスと相談して公平にいこうということで纏まった」
「公平に?この小さな塊を分割するつもりかい?」
「ミスト、そうじゃない。これを手に入れるチャンスを皆に公平に与えるということだ」
言いながら、マンカストラップは傍に置いてあった四角いものを引き寄せた。
上を向いている面には丸い穴がぽっかりと開いている。
「それ見たことあるわ」
シラバブを抱き留めたランペルティーザが声を上げる。
声に出さなくても、ほとんどの猫たちがそう思っているはずだ。
「皆よくわかっていると思うが、我々がこの世界で生き残っていくためには様々なことに打ち勝つ必要がある。
生き残り、腹を満たし、伴侶を得るために我々は常に闘わなければならない。
闘い、そして生き残れ。そうすればチャンスは生まれる。いいな?」
朗々と響くマンカストラップの声を、街の猫たちは皆黙って聞いている。
「さあ、闘いの幕を開ける時だ。闘いは個々のためであり、またチームのためでもある。
もてる能力を最大限に活かしてくれ。さあ、チームを決めようではないか」
雰囲気に呑まれた猫たちは、促されるままに箱から色の付いた玉を抜き取ってゆく。
「大体同じような色なら同じチームだ」
「その台詞もなんだか知っている気がするよ」
くすんだ赤色のゴムボールを弄びながらミストフェリーズは呟いた。
最後に残った玉を取り出すべくひっくり返された箱から緋色の小さなボールが鈍い音を立てて床に落ちた。
シルバータビーの手がそれを拾い上げる。
「だいたい似たような色だね、マンカス」
小柄な黒猫はそう言って自分のボールをふわりと宙に浮かせた。
「頼りになりそうだな」
マンカストラップはふっと微笑んで、すぐに表情を引き締めた。
「チームは三つ、赤・青・黄に分かれている。ルールは単純至極。
各チーム代表を出して競ってもらう。先にフラッグを手に入れたチームにポイントが加算される。
最終的にポイントの最も多いチームが勝ちだ」
各チームとも代表になれるのは各々一回のみ。
フラッグは二つあり、大きい方が2ポイント、小さい方が1ポイント、取れなければゼロ。
「暴力は慎むように。また、この廃屋から出ることは禁止する。
肉体と知能の限界に挑んでくれ。健闘を祈る。ジェリクルキャッツよ!」
姿勢を正し、目を鋭くしたマンカストラップの声に応え、猫たちが一斉に立ち上がる。
「武闘会の支度を!」
ちなみに、くじの神の導きによりチーム編成は以下のようになった。
■赤チーム
ランパスキャット,ギルバート,タントミール,カーバケッティ,
マキャヴィティ,ランペルティーザ,ボンバルリーナ
■黄チーム
ラム・タム・タガー,ジェリーロラム,ヴィクトリア,ミストフェリーズ,
マンゴジェリー,マンカストラップ,カッサンドラ
■青チーム
スキンブルシャンクス,タンブルブルータス,シラバブ,ディミータ,
コリコパット,ジェミマ,ジェニエニドッツ
猫たちはいつだって全力投球。
Jellicle Battle リターンズ!
Q.リターンということは以前にもありましたか。
A.HPリニューアル前には存在しました。
Q.復活させるということですか。
A.題名以外は全部変わります。あまりに不出来だったので(笑)
というわけで、リニューアル☆
組み合わせは、例によって例のごとくランダムプログラムを組んで実行。
あれ?御三家が固まった。スリーガールズは綺麗に分散したのに。
猫はチーズが好物らしいということで、チーズ争奪戦。
実にくだらない。くだらないけど本気で勝ちに行っちゃいます。
結果がどうなるか。
それはまだ誰も知らない。