Jellicle Battle

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最終更新日: 2018-11-11
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Jellicle Battle

いつも全力でア・イ・シ・テ・ル

吹き抜け部分を囲っている柵に飛び乗ったミストフェリーズは
手すり部分を伝い歩きながら大小二つのフラッグの配置を抜け目なく確かめた。
同じことをシラバブがしようものなら、マンカストラップを始め猫たちはハラハラしただろうが、
そこは細いロープの上すら踊りながら渡る黒猫のことだ。
さほど幅の無い手すりでも、その足取りは全く危なげない。

「なかなか良い仕事するなあ」

大きなフラッグの位置を確認して、黒猫はひっそりとほくそえんだ。
小さいフラッグは破れたカウチに突き刺さっているのがよく見える。
階段を下った勢いを殺さずに右に曲がって突っ込めばいい。
問題は大きい方のフラッグの位置だ。

「問題はスタート位置か・・・」

柵の間から頭を突き出すようにして階下を凝視していたカーバケッティが呟いた。
黄色チームに大きくリードされている状況で、小さなフラッグを狙う理由はない。
狙うべき大きなフラッグは階段すぐ横にある。
階段を駆け下り、即左に鋭く身体を捻らなければならない。
勢い余れば転倒しかねないし、遠心力に振り回されて大きく時間をロスする可能性がある。
そうかと言って階段を下るスピードを緩めればライバルに先を越されてしまう。
となれば、できるだけスピードを維持しつつも最後の最後で勢いを殺すしかない。
カーバケッティはスタート位置に移動して、コース取りを確認し始めた。
運動神経抜群のミストフェリーズやディミータに勝つには、生半な作戦ではいけない。

「同じ轍は踏まないわ」

鋭い視線を下の階に向けたディミータは独りごちた。
勢いをつけて階段を下っても、鋭い爪と重心の移動を駆使すれば方向は変えられる。
彼女にはそれができる自信があった。
だが、そうするにはそうできるだけの条件が必要だ。
例えばそう、先にマキャヴィティが身を以て示してくれたこの戦場の欠陥。
全てが脆くなっているのだ。
フラッグの配置を考えれば最も方向転換に適したポイントは当然見えてくるが、
ディミータにはその場所に潜むリスクの高さも見えていた。

「うーん・・・僕の楽勝だと思うけど、ディミの身体能力とカーバの奇策は侮れないからなあ」

チームの優位を盤石にし、二連勝の勢いをそがないようにしなければならない。
相手を牽制することも作戦のうちだ。

「ねえ、カーバ」
「何だ?」
「やだなあ、そんなに構えないでよ。ちょっと聞いておきたいことがあってさ」

胡散臭いものを見るような目で、カーバケッティは黒い猫をじっと見る。

「答えられることと答えられないことがある。それでいいなら何なりと訊くといい」
「警戒してるね。答えられないなら答えなくてもいいよ。
 カーバはいつもレディファーストと言うけど、今回は違うのかい?ディミが相手だけど」
「勝負は勝負だ。真剣に勝負しないとディミータに殴られる」

何の躊躇いも無しにカーバケッティはきっぱりと答え、ここと決めた場所に毅然と立つ。
その隣に真剣な表情をしているディミータが歩いてきて並んだ。
小回りの利くミストフェリーズはどこからのスタートでもよかったので、
思う存分身体のバネを使うべく、ライバルたちから少し離れた場所に位置を決めた。

「ディミータ」

隣に立つ美しい雌猫には視線を向けないまま、カーバケッティはディミータに囁きかける。

「俺はディミを心から愛している。だが、これは勝負だ。譲る気は無い」
「なっ・・・」

ディミータの尻尾がピンと張り詰めた。
ぷるぷると踏ん張った脚が震えている。
それに気付かないマンカストラップは、準備万端と見てちょび髭の政治家にお願いしますと声を掛けた。

「それでは早速。On your mark...Get set!」

階下からよく通る声が響く。

「俺とディミなら黄色チームが調子づくのを止めら」「五月蝿いわよバカ!」

強烈なディミータの右フックが決まったのと、
ミストフェリーズが軽やかにスタートしたのはほぼ同時だった。
痴話喧嘩に気を取られていた猫たちにはバストファジョーンズ氏の声が聞こえていなかったが、
小柄な黒猫の研ぎ澄まされた聴覚は間違いなく「Go!」の合図を捉えていた。

「よっしゃ行けミスト!」

ベルトをじゃらじゃら鳴らしながらラム・タム・タガーが機嫌良く叫ぶ。
その声を背に、一気に駆け下りたミストフェリーズは宙返りをしながら身体を捻り、
踊り場で舞うようにして方向を変えると一気に一階まで下ってゆく。
そして下りきる直前に飛び上がり右の壁を蹴って鮮やかに身体の向きを変えると
大きなフラッグの前に降り立った。

「冗談じゃないわ!」
「このままで済ますか!」

出遅れたと見るや、切り替えの速いディミータと打たれ強いカーバケッティは、
すぐさま体勢を立て直して走り出した。
既にミストフェリーズは折り返してしまっている。

「巫山戯るな!」
「アンタもね!」

競り合いながら踊り場まで一気に走り、ディミータは正確無比な重心のコントロールで、
カーバケッティはうまく壁を利用してそれぞれに完璧な折り返しを見せる。
そんな二匹の目に映ったのは、見事なまでのミストフェリーズの身のこなし。

「・・・仕方ない」

ぐっと歯を噛みしめて、カーバケッティは瞬時に大きいフラッグを諦めた。
更に加速して、下りきる前から右へと舵を切る。
同じように右と即断したディミータが追いすがる。
選んだ最短ルートは同じ、身体がぶつかり合う。
雌猫のディミータは体格上圧倒的に不利の筈だが一歩も退かない。
汚れてくすんだカウチ目がけて共に床を踏み切る。

「息はぴったりだね」

大きいフラッグを手に、ミストフェリーズは高みの見物状態だ。
彼と階上で声援を送る猫たちが見守る中、空中戦を制したのは。

「獲った!」

勢いづいてカウチの上で一回転してからガバッと身体を起こしたのはカーバケッティだった。
最後は身体の大きさが物を言ったようだ。
ディミータは一瞬口惜しそに眉をしかめたが、仕方ないとばかりに頭を振ると
あれだけ激しい勝負の後にも関わらず涼しげな表情で元の場所に向かう。
そして、ミストフェリーズとすれ違いざま、僅かに目を細めて微笑を浮かべた。

「見事にあなたの策に嵌ったわ」
「何のことだい?」
「あら、今更とぼけなくていいのよ。揺さぶりを掛けるのも立派な作戦なんだし」
「ディミのそういう割り切ったところが好きだよ」

黒猫は無邪気な笑みを浮かべて言った。
美しい雌猫が返したのは、それは美しい凍てつくほど完璧な笑顔だった。

「動揺した私も馬鹿だったわ」
「カーバにしかできない芸当だね」
「そうかもね」

あっさりとそう言うと、ディミータは一段飛ばしに階段を上ってゆく。
それを見送るミストフェリーズの耳に、バストファジョーンズの声が聞こえた。

「第四バトル終了!結果はミストフェリーズに2ポイント!カーバケッティに1ポイント!」

二階から歓声が上がる。
一際大きい声は派手猫のものだ。
弟分の勝利が嬉しいのかも知れない。
そんな騒がしい幼なじみを横目に、マンカストラップは己の役目を忘れたりしない。

「さあ、次だ。準備してくれ」

凛々しく通る声に、立ち上がったのは三匹の雌猫。

「あら、可愛いお嬢さんたちが相手ね」

タントミールは対戦者となる少女たちを見て微笑んだ。

「気を付けてね、私はすごくアクティブでアグレッシブなのよ」

可憐な笑顔でヴィクトリアはさらりと言う。

「幼い子供の強みは恐れを知らないことです、何だってしてみせますよ」

シラバブはおおよそ幼い仔猫の台詞とは思えない発言をする。

「タント、落ち着いて行けば勝てる試合です。ファイト!」

ギルバートが小さく笑みを浮かべながら力強くタントミールに頷いた。

「ヴィク、余裕はあるから気楽にね」

ジェリーロラムはぽんぽんとヴィクトリアの背を叩いて励ました。

「バブ、楽しんどいで」

ジェニエニドッツはニッと笑ってシラバブを送り出す。



華奢な雌猫たちの争い。
だが、忘れてはいけない。

可憐な乙女でも戦うことはできるのだ。



かつてオルレアンを救ったのは、うら若き乙女だったのだから。

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黄色チーム絶好調。
途中経過はこんな感じ。
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赤:3 ポイント 黄:7 ポイント 青:2 ポイント
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もはやどうにもならないんじゃないかというくらい差が開きました。
さて、どう挽回するのでしょうね。

カーバケッティはあくまで紳士で真摯にディミータを愛していて、
ディミータはその直球過ぎるアイシテルの気持ちをスルーできず、
結果として今回はミストに利用されちゃいました的な話。

黒猫はくせ者です。

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