Jellicle Battle
追いつけ 追い越せ ぶちかませ
階下では、ころころの黒猫がちょこまかとした動きでフラッグを運んでいる。
大きなフラッグを一本、カウチに差し込む。
続いて、カウチの向こう側にあるローテーブルの穴に小さいフラッグを突き立てる。
「勝てる可能性は?」
「五分以上だ。大きい方を獲れば負けることはない、あとはあの馬鹿を封じるだけだ」
並んでフラッグの位置取りを見ていたカーバケッティに答えて、
ランパスキャットは早々に階段の前に移動した。
コース取りは簡単に思い描くことができる。
速さもパワーもライバルたちより頭一つ抜けている。
だが、頭の切れるスキンブルシャンクスと何をしでかすかわからないラム・タム・タガーが相手だ。
いくつもの状況を想定して対処方法を考えておく必要がある。
最後はどれだけ柔軟に状況に対応できるかが勝負だ。
「真面目にやれよ」
「指図されるのは好かねえな。黙って見てりゃいいってもんだ」
背後から声を掛けてきたマンゴジェリーを振り返ることなく、
ラム・タム・タガーはファーを揺らしながら階下を眺めてほくそ笑んだ。
点差には余裕があったはずだが、ヴィクトリアとジェリーロラムの連敗でその差も僅かだ。
大きい方のフラッグを獲ればその時点でチームの勝ちが決まる。
相手は強いが勝てないことはないし、秘策もある。
まともな勝負ではライバルたちの尻を見るだけになりかねない。
鍵になるのは己の信念、必ずできるという信念だ。
「厳しいかねえ」
「確かに厳しいけどやってできないことはないよ」
政治家猫の動きから目を離して振り返ったスキンブルシャンクスは、
僅かに眉を曇らせているジェニエニドッツに微笑んでみせた。
現実問題として勝つためには二本獲りが必要でそれは難しい。
ラム・タム・タガーはともかく、ランパスキャットは奇抜な作戦に打って出る筈はなく、
自滅してくれるという望みは持たない方がいい。
まずは全力で大きなフラッグを獲りに行くべきだ。小さい方は白黒猫に任せる。
ひとまず天の邪鬼を押さえ込まなければならない、その点で利害は一致するはずだ。
「マンカス、結果によっては同点になるかもしれないけれどその時はどうするの?」
「そうだな、そうなれば延長戦を行うしかないだろう」
訊ねるカッサンドラに答えて、マンカストラップは階下を覗き込んだ。
バストファジョーンズ氏の姿は見えないが、フラッグは既にセット完了のようだ。
「よし、始めるぞ。スタート位置に付いてくれ」
ランパスキャットはふるりと頭を振って姿勢を正す。
その右隣にスキンブルシャンクスが並ぶ。
最後にラム・タム・タガーが一番左に立った。
「バストファさん、コールお願いします」
マンカストラップの声が響く。
これで決まるのか、猫たちの間に緊張が走る。
しかし、階下から聞こえる気の良い声は先ほどと何ら変わらない。
「よしよし、それじゃあ始めよう。On your mark...」
ランパスキャットの脚に力が籠もり、ラム・タム・タガーが身構える。
「Get set!」
スキンブルシャンクスの青い目がきらりと煌めく。
「Go!!」
綺麗に揃ったスタートだ。
応援する猫たちの歓声が響く。
「行かせないぞ」
すぐに半身ほどリードを取ったのはやはりランパスキャットだ。
内側に切れ込んでラム・タム・タガーの進路を塞ぐようなコースを取る。
タガーは舌打ちをしたが下げざるを得ない。
ぶつかりにいけば負けるのは自明の理。
しかし、これを仕掛けたランパスキャットも内側に入ったせいで
踊り場では急な方向転換が必要になる。
喧嘩猫が僅かにスピードを落とす隙を見計らったかのように、
外側からスキンブルシャンクスが内側に身体を倒す勢いで折り返し地点に突っ込む。
長年の列車勤務で培ったバランスと瞬発力のある筋力を活かしてランパスキャットに競り掛ける。
「なかなかのもんだ」
「でしょ?」
喧嘩猫は面白いと言わんばかりに目を細め、鉄道猫は楽しそうに笑みを浮かべる。
「貴様らだけは許さん!」
完全に置いてけぼりのタガーはぎりりと歯がみする。
目の前に立ちふさがる二匹の雄猫。
前が速すぎて追いすがるのが精一杯だ、追い抜かすなど到底できない。
散らばる障害物も、腐った床も、ランパスキャットとスキンブルシャンクスは冷静に躱してゆく。
瞬間的な判断力はさすがだ。
「・・・こうなりゃ奥の手だ」
真剣勝負だ、持てる力は全て使うしかない。
二匹のライバルたちに身体一つ分遅れて下のフロアに降り立ち、
ラム・タム・タガーは大きく飛び上がりなが己の尻尾を掴んだ。
しなやかな尻尾はまるでライオンのように先端がラッパ状に広がっている。
その不思議な形の尻尾に隠された力を解放する時が来たのだ。
「貴様らにフラッグはやらねえ!くらえ、尻尾バズーカ!」
先端は銃口のように火を噴き、轟音が空気を揺らしてライバルたちを吹き飛ばす。
筈だった。
すとん、と床に降り立ったラム・タム・タガーの視線の先で
ランパスキャットとスキンブルシャンクスの姿はますます遠ざかってゆく。
「あれ?おっかしいなあ・・・」
振り返ってタガーはもう一度尻尾を持ち上げると先端を覗き込んだ。
その刹那、光が迸り顔面への衝撃と浮遊感がラム・タム・タガーを襲った。
「これは譲れないんだ」
スキンブルシャンクスはカウチの手前で跳び上がった。
近づいてから飛んだのでは高さがいる分前へ向かうスピードが落ちてしまう。
それに、ランパスキャットと空中で競ったのでは弾き飛ばされてしまうことはわかり切っている。
できるだけ遠くから、白黒猫よりも早く空中へ飛び出してゆく必要があった。
「負ける気は無いな」
遅れることほんの僅かでランパスキャットも床を踏み切った。
一番力を込めやすい角度というものがある。
フラッグはカウチの背もたれを飛び越えた向こうにある。
狙った位置に確実に着地することが重要だ。
「大きい方は貰うよ」
「巫山戯たことを」
空中で火花を散らす二匹の雄猫。
彼らの耳が大きな音を聞いたのと、黒い物体を目の端に捉えたのはほぼ同時だった。
「!?」
「ちょ・・・っ!」
空中戦を展開しつつあったランパスキャットとスキンブルシャンクスの間に
凄い勢いで黒い塊が飛んできて、あっという間に二匹を弾き飛ばす。
軽いスキンブルシャンクスは簡単にローテーブルの向こうまで吹き飛ばされ、
重量のあるランパスキャットはローテーブルの上に半ば落ちるようにして降り立った。
「ってえ」
黒い塊はカウチの上に落ちて呻いている。
勿論それはラム・タム・タガーだ。
「うまくいかねえな。お、そんでも結果オーライってやつか」
ぷるぷると頭を振って立ち上がったラム・タム・タガーは
己の腹の下敷きになっていたフラッグに気付いてニヤリとした。
「ちょっとタガー、何したんだい?」
吹っ飛ばされただけでなくフラッグを取り損ねたスキンブルシャンクスは
大きなフラッグを満足そうに弄ぶタガーに怪訝そうに声を掛ける。
「何って、バズーカ撃った」
「バズーカだ?お前、頭大丈夫か?」
ローテーブルにあった小さなフラッグを手にする格好になったランパスキャットが眉を顰めた。
完全に封じた筈のタガーが打った起死回生の一発がバズーカとは何事か。
「時には常識では考えられねえことも起こるってことだ」
「お前の口から常識なんて言葉が出てくるとは思わなかったな」
「それにしても、本当に非常識だね。仕込んでいたのかい?」
「仕込むも何も、オレ様に元々備わってる能力だし」
胸を張る派手な猫をみて、それからランパスキャットとスキンブルシャンクスは顔を見合わせた。
そこにバストファジョーンズがとことこと歩いてきて、ふむと頷いた。
「結果はラム・タム・タガーに2ポイント!ランパスキャットに1ポイント!」
騒然としていた二階からは歓声が聞こえる。
何はともあれ、勝負はついた。
スタートダッシュに失敗した黄色チームだが、すぐさま先頭に立ってそのまま逃げ切り勝ち。
こうして闘いの幕は下りた。
最終戦。
第 7 バトル
赤:ランパスキャット VS 黄:ラム・タム・タガー VS 青:スキンブルシャンクス !!
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フラッグ(大)獲得 >>> ラム・タム・タガー
フラッグ(小)獲得 >>> ランパスキャット
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赤:7 ポイント 黄:9 ポイント 青:5 ポイント
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(*^ー゚)b グッジョブ!!
第 7 バトル 終了。お疲れ様でした☆
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というわけで、黄色チームが逃げ切り勝ち。
タガーに尻尾バズーカ撃たせることだけは早々に決まってたのです。
まさかそれで勝つことになるとは思っていませんでしたが。
黄色チームも、最終競技者にタガーを置くなんて冒険してますね。