Jellicle Battle

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最終更新日: 2018-11-11
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Jellicle Battle

勇気一つを共にして

「スターターもバストファさんにお願いしてある。
 バストファジョーンズさん、いつでもいいですよ!」

マンカストラップが階下に向けて言うと、機嫌の良い返事があった。
直後、何に躓いたのかどしゃぐしゃぼふんと音がして呻き声が上がったが
トップバッターとなった雌猫たちはそんなことお構いなしに実に堂々としている。

「作戦はあるのかい?」

悠々と階段の前に立ったおばさん猫は、左右の雌猫たちにちらりと視線を投げた。
カッサンドラとボンバルリーナは、ジェニエニドッツが手ずから育てた子供のような存在だ。

「アンタらがいくら可愛いからと言っても、勝負は勝負だからね」
「まあ、ジェニーってば」

カッサンドラはくすくすと笑う。

「どんなちっぽけな事でも負けてはいけないと言ったのは貴女よ。
 手は抜かないわ。私には精霊の守護があるもの」

不思議な発言をしても、そこはカッサンドラだからという理由で誰も突っ込まない。
彼女は女神の名を持つ、皆にとってのお姉さんなのだ。

「ジェニーこそ、作戦はあるの?」
「あたしはまどろっこしいのは嫌いだよ、さっきも言ったけどね。女は度胸!
 ガッツとファイトがあれば何だってできるものさ」
「まあ、素敵」

やはりカッサンドラはにこにことしている。

「おばさん泰然としてるね。ここは貰ったも同然かな」
「間違いないわ。おばさんに気迫には誰も勝てないのよ」

スキンブルシャンクスとジェミマは余裕の笑みで言った。

「明晰さと速さはあの中じゃカッサが頭一つ抜けてるかな」
「問題はなさそうね」

ミストフェリーズとヴィクトリアは微笑み交わして寄り添っている。
そんな好き勝手な会話を余所に、ボンバルリーナは毛繕いに余念が無い。

「落ち着いているな。やはりボンバルが一番だろう」

ボンバルリーナを真剣に見つめているランパスキャットが呟く。

「それは大いにお前の贔屓目が入っていると思うぞ」

カーバケッティがぼそりと言えば、ギルバートは首を横に振った。

「いえ、同じチームだから応援するのは当然ですよ」

外野の意見など聞こえていないだろうボンバルリーナはゆっくりとスタート位置に付いた。

「ボンバルは何で勝負するの?」
「あら、カッサ。聞くまでも無いことだわ」

色っぽい流し目でカッサンドラを見やり、妖しげな笑みを浮かべたボンバルリーナは、
うっとりするような魅惑的な声で囁く。

「この色気があれば十分、でしょう?」

雄猫たちの視線が美しい雌猫に集中する。
シラバブを除く雌猫たちも、だだ漏れの色気に中てられたかのように呆然としている。

「まあ、惚れてしまうわ」

それはカッサンドラも例外では無く。
そんな時、何の前触れも無く、勝負の時は唐突に訪れた。

「On your mark... 」

さすが政界に顔の利く大人物、完璧なブリティッシュイングリッシュだ。

「Get set!」

マンカストラップとはまた少し違った威厳に満ちた声が響く。
ここでボンバルリーナがはたと気付いたのか耳を揺らした。

「Go!!」

おばさん猫が飛び出した。
ワンテンポ遅れてボンバルリーナが続く。
はっと我に返ったカッサンドラは完全に出遅れた。

「あっはっは、ボンバルにはお礼を言わなきゃねえ」

思いがけず、強敵のカッサンドラはボンバルリーナに封じられた。
いくら昼間に寝てばかりだとは言え、ゴキブリにタップダンスを仕込むおばさん猫の脚力は十分だ。
階段の折り返し地点で鮮やかに向きを変え、階上から確認したフラッグへとダッシュする。
大きいフラッグの方が点数が高い。
だが、もう一方のフラッグを探していては両方逃してしまう可能性がある。

ジェニエニドッツは既に割り切っていた、点数が取れればそれでいいのだと。
速さも瞬発力も若い猫たちには叶わないが、チャンスがあればそれに賭ける。
拾うのも捨てるのも勇気一つだ。

「獲った!」

カウチに飛び乗り、ジェニエニドッツは高らかにフラッグを掲げた。

「さすがおばさん!」
「格好いいですー」

コリコパットとシラバブがきゃっきゃと喜ぶ。
愛らしい光景だ。
だが、他のチームの猫たちにはそんなものは見えていない。
ランペルティーザとマンゴジェリーが、それぞれのチームメイトに向けて叫ぶ。

「ボンバル!早く早く!」
「カッサ!あと一本あるぞ!」

一階に降り立ったボンバルリーナは視線を彷徨わせ、一瞬脚を止めた。
ざっと辺りに目を向ければ、視界の隅に小ぶりなフラッグが映る。
すぐさま獲物に向けてスピードを上げた。

遅れたカッサンドラは、瞬間的にいくつかの可能性を取捨選択していた。
先頭を行ったおばさん猫の狙いはカウチのフラッグに違いない。
そしてもう一つ残っているはずのフラッグは踊り場から見えない位置にある。
それを探してボンバルリーナは一度脚を緩める筈だ。
階段を下りきってすぐに左、この廃屋に入ってきたときに見たダイニングテーブルの辺りだ。
その一瞬で逆転するしかない。

「貰ったわ!」「それはどうかしら!」

ボンバルリーナが滑り込み、カッサンドラが飛び込む。

勝負はほんの僅かの差だった。
だが、決定的な差だ。
ボンバルリーナが先にフラッグに届いた。

「・・・仕方ないわね、完全に負けたわ」

潔く負けを認めたカッサンドラは埃まみれでにっこりとした。
小さなフラッグを獲ったボンバルリーナも埃だらけだ。
おまけに素晴らしいスライディングで辺りには砂埃が舞っている。

「第一バトル終了!」

バストファジョーンズの声が廃屋に響く。
演説で鍛えた喉は強い。

「結果はジェニエニドッツに2ポイント!ボンバルリーナに1ポイント!」

ワッと歓声が上がる。
短くも熱いバトルを繰り広げた雌猫たちが戻ってくると、チームメイトたちは賑やかに彼女らを迎えた。

「ごめんなさい、負けてしまったわ」
「問題ない、カッサ。まだ第一試合だ。まずは俺が挽回する」

力強く宣言すると、マンカストラップは立ち上がり階下を見下ろした。
大きい身体を揺すって、バストファジョーンズ氏がフラッグを用意している。

「次マンカスなの!?」
「うっそ、おおとりかと思ってた」

驚いたように声を上げたのはランペルティーザとジェミマ。
ランペルティーザは赤チーム、ジェミマは青チームのそれぞれ次の代表者だ。

「大丈夫、速さでも小回りが利くという点でもランペルの方が上だ」
「うん、わかってる」

カーバケッティの言葉にランペルティーザは大きく頷いた。

「冷静になることが肝心よ、ジェミマ。よく周りを見てね」
「わかったわ」

ディミータのアドバイスにジェミマは表情を引き締める。

「おう、しくじるなよ」
「マンカスは君とは違うよ、タガー」

ラム・タム・タガーなりの励ましの言葉と、ミストフェリーズなりのエール。
マンカストラップは振り返り幽かな笑みを浮かべた。

「勝てない試合ではない。安心して待っていろ」



手は抜かない。
容赦はしない。



絶対に負けられない闘いが、そこにはある。


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おばさん凄い。
というか、この組み合わせがどうよと思いますが。

バトル自体はどうということもないし、
早い者勝ちの超単純決着ですが。

ちなみに、プログラムの結果はこんな感じ。
顔文字入りコメントもランダム出力なのでけっこう適当。
これが第7バトルまで続くという。

第 1 バトル
赤:ボンバルリーナ VS 黄:カッサンドラ VS 青:ジェニエニドッツ !!
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フラッグ(大)獲得 >>> ジェニエニドッツ
フラッグ(小)獲得 >>> ボンバルリーナ
--------------------------------
赤:1 ポイント 黄:0 ポイント 青:2 ポイント
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(v^ー°) ヤッタネ
第 1 バトル 終了。お疲れ様でした☆
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次は誰が勝つかしらね。

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