Jellicle Battle
エピローグ
陽は傾いて、割れたガラスと穴の開いた壁から冷たい風が吹き込んでくる。
再び一階に集合した猫たちは、一仕事した後の開放感に浸っていた。
フェードアウトしたまま行方不明だったコリコパットもいつの間にか戻っている。
「さて、皆も見たとおり勝敗は決した」
マンカストラップが立ち上がって話し始めると、ざわめいていた猫たちもぴたりと話を止めた。
「壁を抜けたり、天井を抜けたり、床を抜いたり、デュティユルも真っ青なこともあったが」
「え、誰?」
うんうんと頷きながらマンカストラップは長い闘いを思い出しているのだろうが、
イマイチ周りには伝わっていないようだ。
「それなりに盛り上がったのでよしとしよう」
「うむ、良いことだ」
にこやかなバストファジョーンズ氏から合いの手が入る。
絶妙のタイミングだ。
「約束通り黄色チームはチーズを持って帰ってくれ。では、解散だ」
長くて騒がしい昼が終わり、猫たちは銘々に帰途についた。
「不思議だよね、タガーのバズーカもそうだけどさ。
普通じゃ考えられないような現象が次々起こるんだもの」
形ばかりの片付けを手伝いながら、スキンブルシャンクスは残っていたカッサンドラに話し掛けた。
彼女の隣では、チーズを分けてもらったらしいタンブルブルータスがもぐもぐと口を動かしている。
「本当に不思議ね。この廃屋そのものも、ずっと空き家だったのに朽ちていないし。
何か不思議な力が働いているのかもしれないわね」
「ああ、そうかもしれないね。僕らには見えない誰かが住んでいたりするのかな」
「明日になって見たら、実はこの廃屋は随分昔に朽ち果てていて
幽霊が住み着いているなんて噂があったとか言うのかしらね」
よくある怪談だ。
死んでしまった住人の霊が遊び足りなくて成仏できずにいたが、
生きている者たちの楽しい笑い声で成仏できました、めでたしめでたし。
というような。
「案外当たりかもしれないわね」
手伝いを終えてチーズを食べていたヴィクトリアが顔を上げて話に加わる。
「何だか外と違う世界にいるような感じがするもの。
外に飛び出して戻ってきたコリコもそう言っていたし」
「コリコもヴィクもそういう感覚が鋭いし、力の掛かり方が普通じゃないのも事実だ。
もし気になるなら明日また見に来るといいかもね」
満足そうに口の周りをぺろりと舐めてミストフェリーズが言った。
「明日になったらこの廃屋はおんぼろの空き家になっているかもしれないって?
うわあ、何だかぞっとしないなあ。僕はそろそろ帰るよ、明日から仕事なんだ」
「そうだったわね。駅まで一緒に行くわ、ねえタンブル」
「ああ、そうだな」
スキンブルシャンクスとカッサンドラ、そしてタンブルブルータスが帰って行く。
「じゃあ、僕らも帰ろうか。楽しかったよね」
「ええ、おいしいチーズもいただけたし」
ミストフェリーズとヴィクトリアは仲良く並んで廃屋を後にした。
お喋りに講じる白と黒の猫たちの後ろで、半開きだった扉がかちゃりと閉まる。
風のなしたことなのか、見えない誰かの仕業なのか、その答えを知る者はいない。
ハロウィンで仕上げたかったのでこんなオチでした。
とりあえずめでたしということで、チーズも無事分配されました。
Oh, Everlasting Cat !