復帰
「隊長、南方司令部から連絡がきています。
グロールタイガー一団が姿を消して以降、海賊が頻発しているようで
なるべく早く仕事に復帰してもらえないかということです」
割り当てられた宿舎で書類作業をしていたギルバートのところに、
副官のカッサンドラが司令を持ってきた。
「グロールタイガーがいなくなっても海賊に困らされるのには変わりないですね。
でも、代行業務は頼んであるのでしょう?」
「そうなのですが、どうも代行部隊が海賊討伐には不慣れなようでして」
「ふうん・・・急なことだったから仕方ないですけどね」
ギルバートはそう言うと、手にしていたペンを置いて暫し黙り込んだ。
カッサンドラは何も言わず、指示を待っている。
「先ほど総務部から連絡があって、隊員を補充してくれるようです。
参謀と整備士含めて計4名。今年の外部募集の合格者だそうです」
「そうですか。ということは、カーバとコリコは」
「今から様子を見に行こうと思っています」
さっさと準備をして、ギルバートは足早に宿舎を出た。
その後を無言でカッサンドラが追う。
「俺はいつでも復帰できますけど」
ベッドの上に座ったランパスキャットが言った。
思ったより傷が深かったせいか、ずっと病院で過ごしていたのだが
平然とした様子にギルバートは少し安心した。
「操舵手の補充はないようなので、よろしくお願いします。
古い傷の上をまた怪我したのでしょう?無理しないでくださいね」
「心配かけてすみませんね」
「いいえ。謝るより怪我をしないでいただきたいのですが。
ランパスももっと小回りの利いた戦い方がうまければいいのですが。
そもそもですね・・・」
剣術について何やら物々しい話を始めたギルバートとランパスキャットを横目で見やって、
カッサンドラとその場にいたディミータは揃って溜め息を吐いた。
「みんな無茶ばっかりするから気が気じゃないのよね」
「あら、それは貴方もでしょう?」
言ってみればお互いさまなのだが。
「・・・じゃあ、僕はカーバとコリコの様子を見てきます。
カッサ、行きましょう。ディミ、後は頼みましたよ」
「了解です」
ランパスキャットたちのいた部屋を出て、長い廊下を歩いて行くギルバート。
医師たちがひっきりなしに往来している。
「ここですね」
扉の前で足を止めたギルバートは窓から中をうかがう。
大けがや重い病気の海軍員たちが収容される、いわば集中治療室。
カーバケッティとコリコパットはいまだにここから出られていない。
待つ時間はない、置いて行くしかないのだろう。
「医師は、何か言っていましたか?」
「昨日の時点では、意識は回復したものの起き上がれる状態までは程遠いと。
創傷が大きく失血が酷かったせいで、暫くは復帰は不可能とのことでした」
毎日病院に来て様子を聞いているカッサンドラから得られた情報は、
結局のところ、諦めるしかないと再認識させられるだけのものだった。
「暫くふたりには治療に専念してもらいましょう」
そう言って、ギルバートは部屋の前を離れた。
医療と薬に頼らなければ命をつなげない者たちを連れてはいけない。
ランパスキャットだけでなくマキャヴィティも、タンブルブルータスも、
主要な戦闘要員はまだ怪我が治りきっていない。
それでも出発しなければならない。
補充されるという隊員がどこまで力になってくれるかが勝負だった。
「準備をしましょう」
あと五日。
「必ず、迎えに来ます」
約束を残して。
暫しの別れを。
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